第2回公判 検察側による証人尋問
〜その2〜

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○ 証人、長嶋氏への弁護側による反対尋問。

検察側の主尋問が終わると、弁護側による反対尋問が行われる。
この反対尋問は、検察によって引きだされた被告に不利な証言について、その矛盾を突き崩したり、全く逆の証言を取ったりして、これまでの証言や場合によっては証人そのものへの信ぴょう性を失わせることを目的とする。うまく決まればドラマでお馴染みな大逆転シーンが見られる。かもしれない。

ところが、今回に限っては証人は明らかに「味方」だったのだ。

弁護人:出版倫理懇話会は警察から申し出があって発足したということですが?
証人:初代会長からはそのように聞いています。
弁護人:定例会が開かれていると言われましたが、東京都の青少年健全育成条例に該当するとか、警察の方からわいせつに該当するのではないかと警告があった、摘発されたということに対しての、総括みたいなことをしていたのですね?
証人:そうですね。全部が全部ではないですが、そういうことです。
弁護人:警視庁からは、文書が来るんですか?
証人:会にくるわけではなくて、出版社に対してですね。会に入っている出版社とか、会に入っていない出版社もあるのでしょうけど、
弁護人:出版社に警察から警告が来た場合には、会のほうに報告するということになっているんですね?
証人:はい。会のほうに情報はすぐまわりますので、じゃあどの出版物かということで回覧して話しあって注意するようにと。
弁護人:その話し合いのときに、警告がいつ出たのかということも出るのですか?
証人:それは、ありますね。
弁護人:だいたいの経験からでいいのですが、その警告は出版直後に出るものなのですか?
証人:それは、まちまちだと思うんですけどね。

山口弁護士の尋問のポイントは、証人から「警察による警告や摘発は出版してすぐに行われる」という証言を引きだすことだったのだろう。もしそうだとしたら、雑誌で出版されてずいぶん時間が経ってから摘発された『密室』は、かなり異例で不自然だということになる。
だが、残念ながらそのような回答は得られなかった。
弁護側はすぐに話題を変える。

弁護人:では、いままでコミックスについて警視庁のほうから警告が出たことはありますか?
証人:…だいぶ前に、同人誌で
弁護人:だいぶ前、というのは90年代ですか?
証人:それくらいですか。同人誌、いわゆる、正式の流通を通ってない…
弁護人:なるほど、それは出版コード通っていなくて、勝手に出しているものがやられたことはあると。
証人:そうです。同人誌で、商業誌ではないです。
弁護人:商業誌ではないですね?
証人:商業誌では無いです。
弁護人:懇話会において、お互いの出している本を持ちよって、ここらへんはこういうようにしようじゃないかと談合して、ごく詳細なガイドラインを決めたりとか言うことはないんですね?
証人:具体的に細かい話は、この出版物が注意を受けたということで、それを回覧して細かいことはそれぞれの出版社で注意してもらうと。
弁護人:証人が、警察官取り調べの際に、松文館が懇話会に加盟していないことから、いわゆるアウトサイダーだと言ってますが、実際に懇話会で話し合いを行なったうえで自主規制をしているわけではないんですね? 例えば具体的な細かいことに関して、ガイドラインを作るとか。
証人:いや、そういうことはやっていないです。それはそれぞれ出版社の判断です。

この流れのなかで弁護側は、これまで商業誌でのコミックスが摘発の対象になったことがないという証言を引きだすことで、今回の逮捕・起訴がいかに異例であるかをアピールした。また、調書での「アウトサイダー」発言についても、「懇話会で明確なガイドラインを引いてるわけではなく各社でそれぞれ自主判断している」→「懇話会に所属していない会社=倫理観の欠如した会社 ではない」というロジックを組みたてることで、検察側のでっち上げた「松文館は無法者」というレッテルを打ち破ることに成功したのだ。

すると弁護側は話題を一転させ、証人のキャリアについての質問をはじめる。

弁護人:証人が出版物に関与するようになって、何年くらいのキャリアをお持ちですか?
証人:アルバイトのころも含めて30年弱ですね。
弁護人:そのなかで、大人向けの出版物に関与するようになってどれくらいですか?
証人:16〜18年くらい、20年になるかな。
弁護人:証人が最初に大人向け出版物にかかったのは80年代前半だとおもうのですけど、時系列たどって過去、描写というのは、どういう傾向にありますか?
証人:まあ、当時は、写真なんですけど、ヘアが1本出ただけでもわいせつで逮捕されるような時代ですから、時代の背景に合わせて、社会の情勢にあわせて、変わっていったと。
弁護人:では、だんだん開放的というか。
そうですね。今は事実上解禁状態ですね。インターネットなんかでは。
弁護人:解禁状態というのは、漫画の場合ですか?実写の場合ですか?
証人:実写の場合です。インターネットでは無修正のものが平気で見られる状態ですし。
弁護人:一貫して性表現は開放的になっていっていると?
証人:そうですね。それは言えると思います。

わいせつの定義はその当時の社会情勢によって決定される、と主張する弁護側にとって、この証言は大きな意味を持つ。もっとも、これに関しては弁護士のお手柄というよりは、証人がまってましたとばかりに発言したような印象を受けた。先程の検察官とのギクシャクしたやり取りとは打って変わって弁護士の質問には雄弁にすらすらと言葉が出てくるのだ。

弁護人:そういうふうにだんだん開放的になっていってる要因に関してはどう考えますか?
証人:ヘアの解禁のこともあるんですけどあと、インターネットの普及ですね。
弁護人:さきほど、編集者の方々が社会の情勢を見ながらいろいろ考えて修正の度合いを決めていると証言されましたが、それは他社の出版物を参考にしているのですか?
証人:出版社に伺ったわけではないので、わたしがどうってことはわからないのですが、そういった要因もあるでしょうし、インターネットでの配信に影響されているというのもあると思います。

そして、このやりとりでは、証人がどっちの味方なのかということがはっきりと浮き出ている。
基本に滝沢氏の証言は、揚げ足を取られることを警戒してか、「それぞれが」「各自が」「まちまちで」とあいまいな表現が目につく。問題はその後で、検察側の質問に対しては「わからないので、回答できない」とするのに対して、弁護側からの質問には「わからないが、こう思う」と進んで証言してくれているのだ。
裁判が始まるまでは、検察側の証人として出てきた滝沢氏のことを、国家権力に魂を売り渡したド外道だと思っていたのだが、それは大きな間違いだった。
まさに面従腹背、シタタカで老獪な会長さんは権力に煮え湯を浴びせる方法をしっていたのだ。

弁護人:証人が作っておられるビデオとか写真集とかは、ぜんぶちゃんとISBN取って流通しているのですか?
証人:そうです。
弁護人:いわゆる裏モノとは違う?
証人:ちがいますね。
弁護人:裏モノといわれるのは、どういうものですか?
証人:それは、まあ無修正のやつなんかですね。
弁護人:検察官が言っていた『蜜室』は裏モノですか?
証人:裏ではないとおもいます。裏モノは流通を通っていないので、売っている場所が全然違いますね。ちゃんとした流通を通っているものは配慮がされています。
弁護人:先程、編集倫理規定というのが証拠としてありましたけれど、これ、平成2年2月15日となっていますよね。これはそれ以降改訂されているんですか?
証人:それはそのままやっていますね。
弁護人:ということは、先ほど言いましたように、これまでヘアとかが解禁されたりしているんですけど、これはあくまで当時の基準ということですか?
証人:当時だとおもいます。
弁護人:「性器及びそれに類する部位」とあるのですが、その当時は実写を想定していたのではないですか?
証人:私が会長になって作ったわけではないので、当時の会長が作られたものですが、実写についての規定だと思います。

この後、岡本弁護士から「出版倫理懇話会に警察官が出席したことがあるか?」との追加尋問がされた。懇話会と警察との関係を知るうえで大変興味深いし、もしここで「懇話会に警察官が出席している」=「警察による事実上の黙認があった」という証言がとれれば、弁護側の立場をより有利にすることができる。
だが、山口弁護士はその質問を途中で制止し、二人で何か相談をした後、岡本弁護士は質問を撤回した。後で山口氏から説明するところによれば、質問撤回の意味するところは、深追いをしない、ということなのだそうだ。現在良い雰囲気で進んでいる尋問なので、突っ込みすぎてあやふやになってしまい逆効果を招く事態は避けたかったということだった。

○ 検察官の追加尋問と裁判官尋問。

この後、検察官による追加尋問が行われた。
弁護側と証人とのやり取りのなかで新たな攻撃のポイントを見つけ出したのだろうか。
だが検察官は『密室』を提示しながら、性器結合部分のアミカケ(修正)の部分が「露骨な表現にあたらないのか?」であるとか「修正の程度はこれで充分か?」さらに「青少年がみたらどうか?」という、何の進歩もない質問を繰り返しただけだった。何度同じことを聞けば気が済むのだろうか。
証人は「適切かそうでないかは各出版社編集部の判断による」と従来の主張を繰り返しただけで、尋問は空振りに終わる。
いったい何がききたかったのだろうか?

マヌケな検察官があたら時間を空費し、被告に有利な展開で証人尋問が終わろうとしていた。傍聴席でも安堵感がひろがる。
だがそこへ、なぜか裁判長が乗り出してきて証人を尋問し始めたのだ。
検察官が焦点のずれた質問を繰り返し、証人があいまいな証言をしていたからだろうか、裁判長は証人に「出版倫理懇話会を組織する目的はなんなのか?」と問い詰めるように聞いてきたのだ。
証人は「問題とされた出版物を回覧して確認しあう」だけだと証言すると、裁判長はさらに噛み付いてきた。 証人が言うように「判断は各出版社がそれぞれ行なう」のだったら、会としての存在意義がないのではないか?と。さらに裁判長は「会として倫理的にこうあるべきだという判断は持ってないのか?」と畳みかけた。

この裁判長は、証人が会長を務める出版倫理懇話会を、アダルト出版界における言論統制の為の最高意志決定機関だと認識していたのかもしれない。組織トップである最高裁の判断に各裁判所が服従する司法の世界とは違い、言論界、つまり報道や表現の世界では、最終的な責任は表現者や編集者が担うべきものである。

業界中枢からトップダウンで降りてきた訓示が逐一現場編集部の手足を縛るようなシステムがあったなら、それはファシズムそのものなのだが、少なくともこの裁判長にはそういう危機感を抱くようなセンスはないらしい。

「会としては具体的なことは言えない」と繰り返す証人に、裁判長はいぶかしげに首を振り、最初の証人への尋問は終わる。
裁判長は20分弱の休廷を告げ、審理は一時中断する。

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※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
※転載は自由です。
※このページは暫定的なものです。予告無しに移動する場合があります。
※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たりAMIの山田一人氏に協力をいただきました。



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