第2回公判 検察側による証人尋問
〜その3〜

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○ 証人、柏木氏への検察尋問。

そして審理は再開される。
検察側2番目の証人である柏木氏が登場、中央の証言台に立つと、先ほどと同じように宣誓する。柏木氏は流通業界の大手・トーハンの課長だ。彼が着席すると、検察官が尋問をはじめる。

検察官:証人は株式会社トーハンの営業部のマネージャーとしてをされているということですね?
証人:はい。
検察官:具体的には出版物の仕入れや、それに伴う管理もされてると。
証人:そうです。
検察官:昨年4月に被告らが出版した密室を扱ったのは間違いありませんね?
証人:はい。間違いありません。
検察官:内容を次善にチェックはされて無かったということですか?
証人:はい。しておりません。
検察官:内容チェックされなかったのはどうしてですか?
証人:雑誌の特性上、製本されてすぐに我々はすぐに書店に流してしまいますので。
検察官:姫盗人という雑誌ですか?
証人:コミックです。
検察官:これも扱われたわけですか?
証人:はいそうです。
検察官:今回の密室が、この姫泥棒から派生したコミック誌だと検察官に発言したことは覚えてますね? 姫泥棒については、どのような認識をお持ちですか?
証人:定期的に刊行される雑誌、という認識です。
検察官:内容についてはどういう印象をおもちですか?
証人:印象については、ここで述べることでは無いと思うのですが。
検察官:どういう認識を持っているか、ということを。
証人:ああ、そうですか。いろいろな作家が、アダルト向けのコミックを出している雑誌だと思います。

証人はよく通る低い声で、きびきびと答えていた。
しかしながら、その証言内容は実に無意味で無内容だった。
別に彼は酔っぱらっているわけでも脳が小学生なのでもない。
一言たりとも検察のいいように証言を利用させまいと、どうにも使い道の無い証言を並べていたのだ。
というか、ここまで来ると検察官にケンカを売っているとしか思えない。第一、声色が敵意むき出しで、完全に戦闘モードなのだ。言うまでもなく、協力の意志なんて毛頭無い。
傍聴している側は、少なくとも私は素直にスゲーと思った。スゲー、戦ってるよ、と。
勇者が、戦っているのだ。
これ以降、後半戦は彼の独り舞台となる。

検察官:密室については、どのようにお考えですか?
証人:姫泥棒に掲載されたときのことですか?
検察官:密室は、姫泥棒に掲載されていた作品ですよね?
証人:はい。
検察官:今回の摘発がある以前、密室についてどのような認識を持たれていましたか?
証人:ほとんどわかりません。
検察官:現在では密室の内容を読まれていますね?
証人:はい。
検察官:今の印象は、どのように思われていますか?
証人:アダルト向けに描かれたコミックスだと思っています。
検察官:読者層というのはどの辺におかれてますか?
証人:ですから、アダルト向けだと申し上げています。

ここで、検察官は先と同じように、証言台に歩み寄り、漫画を証人に見せる。あらかじめ付せんの挟んである箇所を広げて見せるだけなので、場所は同じだ。

検察官:以前にも確認していただいたと思うのですが、これについて、証人はどのような印象を持たれていますか?
証人:…あの、性器の部分のアミカケが薄くですね、中に性器が描かれていることが客観的には認識できます。
検察官:芸術性があるとおもいますか?
証人:どのレベルまでが芸術かというのは、わかりませんので。人によって違うと思いますので。わかりません。
検察官:密室の内容ですけど、いやらしいという気持ちになりませんでしたか?
証人:なりません。
検察官:ならない?
証人:はい。
検察官:人前で読めるような雑誌だと思いますか?
証人:誰がですか?
検察官:一般の人が
証人:読める人もいれば読めない人もいるんじゃないですか?
検察官:あなたはどうですか?
証人:私は、そうですね。読むときもあれば、読まないときもあります。

この発言は全く正しい。証人は今まさに法廷というこれ以上無いくらい「人前」で「読んでいる」はずなのだが、検察官は何が聞きたかったのだろうか? 
人前じゃ恥ずかしくってとても読めませんと言ったら偽証罪で告発するという高等戦術だったのだろうか?
検察官はこの後、な ぜ か 青少年の話をまた持ち出してくる。

検察官:…青少年に見せられるような内容ですか?
証人:それは、出版社も発行するときに、自主的に青年マークを入れていますので、18歳未満の青少年には見せられていないと思っています。
検察官:というと、逆に青少年には見せられる内容ではないと?
証人:…沈黙。見せられるような、というよりも、表現の問題ですけれども、青少年に対して、見せるべきではないと、認識されて発行されているものですから、わたしもその通りだと申し上げているわけです。
検察官:つまり、見せられるものではないと。
弁護人:異議有りっ。誘導しています。
裁判長:あなたはどう思いますか?
証人:そうですね、自主規制のマークを尊重すれば、見せられるべきではないと思います。
検察官:今回のコミック本の『密室』ですが、これの取り次ぎをされてましたよね? なにか取り次がない基準はありますか?
証人:どの部分を言っているのでしょうか?
検察官:内容についてですね。描写についてです。
証人:ただ、明らかにですね、公序良俗に反するですね、解っているものに関しては、これは取り次ぎません。
検察官:この内容は公序良俗に反すると思われますか?
証人:それは、わかりません。
検察官:わからない? それはどういうことですか?
証人:それをここで明らかにしてゆくのであって、私自身が決めることではありません。
検察官:証人の判断ではできないということですか?
証人:そうです。
検察官:解らないということですか?
証人:そうです。
検察官:えーっと、密室のようなコミック誌が社会に出回ることについては、どう思われますか? 
証人:コミックスが社会に出回ることですか? それとも密室が出回ることですか?
検察官:これがですね。コミック誌ですね。
証人:どう思われますかって、我々の会社は流通をしてるわけですから、今の時点では問題ないと思われます。
検察官:問題があるとは…
証人:思わないですね。
裁判長:質問と答えがかみ合ってないようですが、密室が流通した場合には、どう考えられますか?
証人:密室が流通した場合ですか? 先ほどもお話ししましたように、18歳未満の青少年には販売しないって自主規制のマークがしてありますので、それが守られていれば問題ないと思います。今確認しなければならないのは18未満のことですか?

証人もどうして検察官が青少年にこだわるのか、だいたい「わいせつ」と「青少年問題」どう関係するのか解らなかったらしく、検察官に逆質問する。だが検察官は証人の質問に答える義務はないので、それを無視して次の質問を持ち出す。

検察官:29ページ、性器の結合部分が描かれていますね。これはアミカケが無い場合はどのように考えますか? 
証人:無い場合ですか? あの、コミックで、どのような描写をどこまですればわいせつかっていうのは、私解りませんし、認識も持っていないので、わかりません。
検察官:証人は、アミカケが無い場合について、わいせつかどうか判断ではないってことですか?
証人:この本にはアミカケが入ってるわけですよね。仮定の話してもしようがないんじゃないですかね?
検察官:アミカケがはいってますけどね、このような状態であれば、出版界で許容されると思いますか?
証人:このような状態とはどのような状態でしょうか? 見たままでしょうか?
検察官:見たままですね。
証人:見たままをいいますと、アミカケというのは、当然薄い濃いがありまして、『密室』が薄いというのは認識しています。ただ、どの程度まで隠せば、社会的に受け入れられるかというのは私には解りません。
検察官:えーと、結合部分のアミカケを通して、性器部分が見えると思うのですが、このような状態でも問題はないということですか?
証人:今回の裁判というのはわいせつ図画頒布、ですよね。ですから、問題ないかどうかは裁判の結果をみなければ解りません。

パラドックスである。「わいせつ」を判断する裁判の証言で「わいせつが決定されていないから解らない」と答えているのだ。あらゆる証人全員がこのように答えたら、永久に裁判結果は出ない。別に証人が詭弁を弄しているというわけではなく、そもそもこの「わいせつ」にオフィシャルな線引きをすること自体がナンセンスなのだ。
ここまでの「戦い」で、証人は鉄壁の防御力を見せつけてきた。
検察が「もし××だったらどうか?」と聞けば「仮定に基づいた問いには応じられない」と返すし、意図や対象があいまいな質問は明確にさせるまで食い下がり、個人的な印象を聞かれれば周知の原則論だけを繰り返していた。
ここで検察官は、先の証人と同じく、警察での事情聴取の件を持ち出してきたのだ。
だが、証人は対抗策を準備していた。

検察官:『密室』の印象について、警察官から事情を聞かれていますが、どのように答えられたか覚えていますか?
証人:ある程度覚えています。
検察官:どのように答えましたか?
証人:いろいろな角度からの質問があり、そのなかの答えのひとつで、消しが薄いというのは、申し上げました。で、このような消しの薄いものは今まで見たことがあるか?という質問に対して、ありませんと答えました。ただ、性的興奮はしないとも答えています。
検察官:わいせつ物とされる可能性についてはどのように答えましたか?
証人:可能性については、わかりませんと答えました。
検察官:調書の中では、「この『密室』は私としてはわいせつ物とされる可能性が高い」と答えていますが。
証人:私は述べておりません。そのような発言はしておりません。

検察官が沈黙する。これは予想外だったのだろう。
あわてて調書をめくり返し、その箇所を逐一読み上げてゆく。

検察官:「消しの範囲が狭くて消しの部分も透けて見える状態であるから、その可能性が高い」というふうに書かれていますが。
証人:先ほども言いましたように、そのような発言はしておりません。消しの部分が薄いのは認識できるとは発言しました。また、アミカケの範囲については姫泥棒と変わっていないとも証言しております。だからわいせつがどうのこうのということは言っておりません。
検察官:なぜこのような調書になっているのでしょう?

こっちがききたい。

証人:あの、私が書いたわけではありませんので、事実関係はわかりませんが、そのような発言はしておりません。
検察官:証人は検察官に読み聞かされて、調書の訂正の申し立てをしているのですが、その訂正箇所のなかに今のわいせつについての部分は含まれていません。ですから書いてあることは間違いないとおもうのですが。
証人:読み聞かせの際に、わいせつの部分だけではなく、数箇所訂正を求めています。そのほとんどは、訂正されたのですが、わいせつの部分だけは、「わいせつ性の可能性が、あるかどうかもわからない」と繰り返しているのに、警察官が調書を読み上げたときには「わいせつ性の可能性があると思う」という内容になりました。それもおかしいんじゃないかと言い、30分ほどやりとりがありました。それで「最終的に法律的にも個人的にもわいせつに関する判断基準は持ち合わせておりませんので、今回の『密室』がわいせつに当たるかどうかは、わかりません」と答えております。そのときに警察官は「この『密室』はわいせつの可能性があるかもしれないが、わたしにはわからない」というふうに直すと言っていたと思います。特に間違いは無いと思いましたので同意したのですが。でも今の話ですと、わいせつの可能性が高いと供述したことになり、重大な意味の違いがあると思います。
検察官:そのほかの部分については間違いはないですね?

そよ風のようにさらっと流そうとしているが、証人はとんでもないことを言っている。
警察官は、証言の内容を故意にねじ曲げただけでなく、訂正を求められた際、証人に嘘を言って同意させ、実際には全く異なる内容の調書を作っていたというのだ。
これは明らかな証拠ねつ造だ。これが問題になったらこの裁判は一発で吹っ飛ぶ。

証人:訂正箇所については、どのように書いたのか文書をみせてくださいと言ったのですが、それは見せられないと言われました。
検察官:嘘が書いてあるということですか?
証人:嘘が書いてあるのか間違っているのかは解りません。ただ、私の証言内容は違うということです。
検察官:検察官には、『密室』について、どのように答えましたか?
証人:警察官からの質問は、ほとんどが部数であるとか、いつどこに搬入したとかであったと思います。
検察官:消しについてはどうですか?
証人:薄いとは答えています。初めて見たとも答えています。
検察官:「このような本と知っていれば、当然書店に販売することはなかった」と答えていますね。
証人:「わいせつ物だとしたら、どうしますか?」という質問に対してはそう答えてます。
検察官:そうしますと、あのぉ、密室の内容ですけどね、いやらしい感じがするかということに関してはしないと答えてますね。
証人:いやらしい感じってどんな感じでしょう?
検察官:まあ、一般的な普通の…。
証人:具体的に教えてください。

傍聴席から失笑が漏れる。
なんだか、どっちが尋問しているか解らなくなってきた。ゲームを支配しているのは明らかに柏木氏だった。
すると、裁判長が助け船を出してくる。

裁判長:この本を見て、いやらしいという印象を受けませんでしたか?
証人:感想を言う場なんですか?
検察官:印象を言ってください。
証人:…とくに、思いません。
検察官:思わない?
証人:はい。
検察官:これは差し支えないと?
証人:青少年に悪影響を与えないように自主規制をしていますので、それさえ守れば問題ないと思います。
検察官:以上です。

結局、検察官は何が聞きたかったのか解らないまま、一方的にオウンゴールを放り込んで質問を終えたような印象を受けた。
次の簡潔なやり取りがそれを裏付けた。

裁判長:では、弁護側の反対尋問を…
弁護士:特にありません。

検察の完敗だったのだ。
証人の柏木氏は1度退廷し、やがて傍聴席側のドアをあけて入ってくる。
彼は、ドア近くの席に座る1人目の証人・長嶋氏と笑顔で会釈をかわすと、その真後ろの席に座った。
彼らの「戦い」は終わったのだ。

この後、検察官と弁護人たちで、次回以降の日程が決められ、閉廷した。


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※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
※転載は自由です。
※このページは暫定的なものです。予告無しに移動する場合があります。
※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たりAMIの山田一人氏に協力をいただきました。



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