第3回公判 検察側による証人尋問
〜その5〜

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検察官は先の敗戦の教訓から、今回は最初から証言と調書の矛盾を攻撃してゆく戦術を取ってきた。

検察官:証人の検察官調書のなかに「明らかにわいせつ物に該当するものであれば、私の権限で止めることができた」とあるのですが、覚えていますか?
証人:そこら辺については、事前に内容的に解ればどうかという仮定での質問がありまして、それに対して…まあ実際問題は仮定の話でしたので、事前に見ることは不可能ですから、仮定の中での話です。
検察官:ここに書いてあることですから、答えられているのですけどね。それで、「明らかにわいせつ物に該当するもの」というのは、どういうものを想定しているのですか?
証人:その時点で、前例が無いですから…ワイセツであるか否かということを議論していると…これがワイセツという具体的な基準、過去に前例があればですね、それに従うと…
検察官:「明らかにわいせつ物に該当するものであれば、私の権限で止めることができた」と、述べてますが、この「明らかなわいせつ物」の証人の認識を聞いているのですが
証人:何とも申し上げているように基準がないのですけれど、ワイセツというものはこの、具体的にどれがワイセツであるというような実際その刑法で具体的にこれがこうという明らかな…過去に前例があるとすれば、具体的にということを言われても…どれがどうかというに関しては申し上げられない…
裁判長:そういうと、現時点では一切無いということですか?
証人:ですからその…
裁判長:明らかなわいせつ物というのは無いと?
証人:…はい。

検察官はまず、「わいせつ物は販売させない」という調書の内容を持ちだしてくる。
それに対して証人は「『わいせつ物というものが明確に存在すれば』という仮定の話だ」と切り抜ける。

検察官:調書の内容について、読み聞かせされていますか?
証人:はい。
検察官:読み聞かせを受けてから、内容を確認した上で調書に署名していますか?
証人:読み聞かせを受けたのですが、非常に緊張疲労がありましたので…頭がついていかなかったというのがありまして…
検察官:調書の中で、『蜜室』がわいせつ物に当たるかどうか、どのように述べたか覚えていますか?
証人:…取り次ぎの販売基準としてワイセツであるというのはあるかもしれないと。ただ個人的にはワイセツであるかもしれないし、ワイセツでないかもしれないと…

そして証人へ調書に署名したのかを尋ね、さらには「調書の内容はどうだったのか?」と尋問している。
こんなふうに聞かれれば、証人は相当なプレッシャーを受ける。下手なことを言えば揚げ足を取られかねないし、最悪偽証罪での告発まで想像するだろう。
結果、危険を回避する為にも証人は、この後あいまいで意味不明瞭な答弁をせざるをえなくなってゆく。
そしてその曖昧な物言いは、当然裁判官の心象を悪くする。

検察官:「わいせつ物に該当すると思います」と断定的に述べているのですけども、記憶はありますか?
証人:あの…今申しましたように、個人の感想としては、断定したつもりはありませんでした。
検察官:「性器や性行為の場面が露骨に描写されており、かなりハードコアと呼べる」と証言されてますね?
証人:具体的な内容に対しては、露骨であるとか、どの程度であればということは言えないですから、わからないと言うふうに…
検察官:証人は、判断基準が無いので解らないということを言ったと述べていますが、調書にはそのような記載がまったくないのですけど、これはどういうことでしょうね?
証人:わいせつ物だと断定したわけではなく…言わされてしまった…本意ではなく、訂正していただいた部分もあります
検察官:事前の証言では、「成年コミックマークが張ってあって成年であれば問題ないものだと。ただ、『蜜室』については、そうであってもわいせつ物として認められるものです」というふうにはっきりと述べられているのですが、そういう記憶はありませんか?
証人:いえ、断定した…断定したようなことはありません
検察官:事前に内容を把握したら、ということについては、どう答えられていますか?
証人:あのう、仮定の話、ということですが…
検察官:事前に内容を把握していたら、松文館に内容の修正を求めていたり消しを濃くする等の対応を求めていたと、ありますが、
証人:あのう、あくまで仮定の中での話をしておりましたので、内容については、判断できないと。
裁判長:さっきから仮定仮定と言われるんだけど、この『蜜室』を前提としないで一般論としてという意味なのか、それとも事前に蜜室を読んでいたらという仮定なのか?
証人:後者です。あの、一般論であの、具体的に現物があれば、ということです。
検察官:事情聴取は『蜜室』を前提にされていると思うのですが、一般論を聞いていたわけでは無いと思うのですが?
証人:…あの私の認識としては
検察官:「もし事前に『蜜室』の内容を確認することができたら」という前提がついているのですが、これが一般論ですか?
証人:………あの、蜜室についても、仮定ということで、現実的には考えられないことですから…
検察官:証人は「松文館が修正に応じない場合、販売取り次ぎなどはしませんでした」ということまで供述していますが?
証人:ええ…仮定の中で、もし、これがわいせつ物であるなら、取り次がない、というようなことは述べたと思います。いずれにしても、これがわいせつ物であるという事ならばと。
検察官:話をした記憶があるのですか? 「修正に応じなければ取り次がない」と話した記憶はありますか?
証人:いえ、あの、内容的にはこうであるということは、事前に内容を見るということはできないということがあるのですから、あの、私としてはそういう強いような言い方で話したつもりはないです。
検察官:証人はどういうつもりで述べているんですか?
証人:先ほど言いましたように、内容的には、判断はあくまで出版社にあるということです。

手持ちの情報を小出しにすることである意味で「逃げ道を作って」尋問し、証人の答弁がそこへ逃げ込んだら、用意していた隠し球をぶつけるという検察官の戦術にまんまとはまってしまった形になった。
検察官の意図はもう明白だった。
個々で何を証言するかはもうあてにしておらず、ここで証人が話すこと全ての信用性を崩すことを目的としていたのだった。
検察官はさらに追撃を続ける。

検察官:証人は『姫盗人2002年3月号』に掲載されている作品について事情をきかれていますが、どのように供述していますか?
証人:はい、姫盗人については、初めて知ったのですけど、消しの濃さが本誌の方が50〜60%、蜜室のほうが40〜50%と。
検察官:わいせつ物に該当するかどうかも判断を求められていますが、「わいせつ物に該当するものとおもわれます」というふうに述べているのですけども?
証人:それは、趣旨が伝わっていなくて…
検察官:調書の中には、性器などが露骨に描写されていますと、そういったことからもわいせつ物に該当すると思いますと述べているのですが?
証人:それはあの、検察官のほうでそのような言い方をするもので、それに対して、露骨であるから、ワイセツではないですか?という問いに対して、その…
検察官:そういう申し立てであれば、調書には「わいせつであるかわいせつでないかはわからない」ということになるとおもうのですが?
証人:ただあの、再三読み聞かせをしていただいたのですが、あの、精神的に疲労していまして、ちゃんと書いていただいているだろうということで…直していただいた部分もあるのですけど…
検察官:事情を聞いた検察官にとって、わいせつであるかどうかということは非常に重要なことだとおもうのですが、その重要な部分だけ、頭がぼーっとしていたということですか?
証人:…。
検察官:調書の読み聞かせを受けて、署名をしたことはまちがいないのですね? 
証人:はい。ただ…
検察官:証人の本意と異なる意図の調書になったのですが、どうしてこのようなことになったのでしょう?
証人:…。
検察官:調書の内容が気掛かりだったら、訂正してくださいという要請はしなかったのですか?
証人:一度、訂正していただいたことはあります。
検察官:で、一番大切なところが治っていなかったということですか。
証人:…。

今日の証言と先日の調書が食い違う理由について、証人は「精神的に疲労していて不本意な調書にサインしてしまった」と述べた。これには一定の説得力があった。
だが証人は決定的な墓穴を掘ってしまったのだ。他のどうでもいいところについては訂正を求めているにもかかわらず、最も重要な箇所についてだけは何の異議も唱えていない。
こういったことは一般的には説得力を持たない。
証人は後半ほとんど聞き取れないほどか細い声で、脈絡の無いことをつぶやくだけだった。
最後「一番大切なところが治っていなかったということですか?」と確認したとき、検察官の顔はニヤリと笑っていた。
しかもこれだけではおわらない。

検察官:ところで、証人は、弁護人から本件に関して連絡を受けたことはありますか?

やばい。

証人:あの、一度、電話をいただいたことがあります。
検察官:いつごろですか?
証人:10日ぐらい前です。
検察官:どのような内容でしたか?
証人:…はっきり記憶していないのですが、ワイセツであるかどうかについて、どのような話をしたかと
検察官:どのように答えられましたか?
証人:調書では、断定したように書かれているが、私としては判断基準はないと…
検察官:他にはなにかありますか?
証人:いや、あの、他は無いです。

検察側の証人へ弁護側が連絡を取っていたことを、この場で証言されてしまったのだ。
弁護士と検察側証人が接触することは、その場で強要や利益供与でも無いかぎり法的には問題がない。
しかしながらこれによって「証人が弁護側に知恵をつけられたのではないか?」という心象を与えかねない。
更に言えば、前回の二人へ同じように「弁護士からの電話」があったのではと推測させることもできる。
そして、事態の深刻さは弁護側の反応にすぐにあらわれた。

弁護人:協議したいので1分か2分、時間をください。

裁判長が許可すると弁護団は退廷してゆく。
傍聴席は凍りついたようになっていた。
何分か時間が過ぎ、やがて弁護人達は席に戻る。
反対尋問としては、いくつかの事実確認、「『蜜室』についての印象、ワイセツかどうかは判断できないという印象は、検察官の取り調べのときの印象か?」「調書の署名は要点を確認しないまま署名したということか?」等の質問を行なう。
一応の止血措置をとったものの、形勢は圧倒的に検察側優位になっていた。

裁判長は20分間の休廷を宣言する。





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※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
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※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たり匿名の方の協力をいただきました。



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