第3回公判 検察側による証人尋問
〜その6〜

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○ 検察側証人、ビューティーヘア氏への主尋問。

当日の傍聴席にいたとある漫画家をして「こりゃ落語の『そこつ長屋』だよ」と言わしめた検察側の奇策、それは今回の裁判での被告であり被害者でもある『蜜室』作者ビューティーへア氏への証人尋問だった。
自分の「罪状」について自分で語れというのだからある奇っ怪な話なのだが、その裏には検察側のある意図がかいま見える。
検察官は、前回の裁判で検察側の証人として召還されながら思惑と逆の趣旨で雄弁を振るった長嶋氏と柏木氏の『叛逆』を、弁護側もしくは業界内で何かしらの「入れ知恵」をされたのだろうと推測していた。
これをうけて検察は先手を打ち、安藤氏への尋問では冒頭から「取り調べの際、何を話したか覚えていますか?」「調書にはこう書いてありますが覚えていますか?」と畳み掛け、公判での証言そのものへの信ぴょう性を破壊してゆく作戦にでてきたのだった。そしてそれは予想外の打撃を与えた。
そしてさらなる追撃戦を展開すべく、起訴された3名中もっとも「素直に罪を認めた」ビューティー氏を喚問、前者3名との立場の違いを鮮明にさせることで検察の立場を補強し、前半戦での完全勝利を狙っていたのだ。
ビューティーへア氏の証言いかんによって裁判の行方は大きく変わる。
弁護側にとっては最後の防衛線であり、ここを失えば後の無い戦いだった。
検察官の質問は具体的内容に突っ込んだかたちで始まる。

検察官:証人は『蜜室』の作者ですね?
証人:はい。
検察官:編集局長の高田さんから依頼されて漫画を描いたということですか?
証人:はい。
検察官:当時あなたは当時竜神社でも漫画を描いていて、それが高田氏の依頼を受けて『姫盗人』でも執筆するようになったということですか?
証人:はい。
検察官:竜神社から依頼されて描いた漫画ですが、どのようなものでしたか?
証人:男女の性愛、性交を描いたものです。
検察官:それをわいせつ漫画であったというように、検察官に述べていますか? 調書がありますけど
証人:はい

検察官か調書の存在を匂わせて来たときは、それはその質問が重大な争点であることを意味する。
そして、ビューティー氏は、これに対して「はい」と素直に認めている。
今までの3名であればここでは絶対に引き出せなかった証言であり、まさに検察の思惑通りだ。

検察官:姫盗人については、どのような認識でしたか?
証人:成人向けの漫画だと
検察官:どういう内容の漫画だと思っていましたか?
証人:性に関することを主題にしていたとおもいます。
検察官:それは竜神社から依頼されて描いたものと同じですか?
証人:大差ないと思います。
検察官:すると、わいせつ漫画だったという認識ですか?
証人:とくには…

ところがビューティー氏は今回の『蜜室』をワイセツと認めたものの、以前描いた「大差ない」漫画は「特にワイセツとは思わない」と言っている。
一見するとなんでもない、この微妙な認識のねじれは、実は後に別の意味合いをもって再登場してくる。

検察官:姫盗人に掲載する漫画として高田さんからはどのような指示がありましたか?
証人:エッチな漫画をということで
検察官:具体的には?
証人:SMだったり強姦という感じです。
検察官:描写に関しては、どのような指示がありましたか?
証人:リアルにと、絵柄ということでしたら、劇画タッチで
検察官:できるだけリアルなということですか?
証人:自分の中ではということです。
検察官:性器性交場面に関しては具体的な注文はありましたか?
証人:特には無いと思います。
検察官:枚数、ページに関してはどうですか?
証人:1作品16ページです。
検察官:構成は?
証人:話の部分を前半にして、あとの部分をエッチなものにという要望でした。
検察官:修正に関してはどのような指示がありましたか?
証人:編集部に一任していました。
検察官:貴方はどのような状態でその原稿を渡していたのですか?
証人:それは、消しの入ってないものを?
検察官:無修正のものということですね?
証人:そうです。
検察官:姫盗人に掲載された漫画9本ありますが、読者層に関してはどのように考えていますか?
証人:成人男性と、
検察官:蜜室に関してはどうですか?
証人:同じです
検察官:では、読者は蜜室や姫盗人にどのようなものを期待していると思いますか?
証人:エッチな、いやらしいものを期待していると思います。

…まあ、ぶっちゃけそのとおりなのだ。
編集部との中でのやりとり含め、このあたりの証言は実にリアルだ。これまでの3名は警戒しながら言葉を選んでいたが、ビューティー氏の話しぶりは自然体で、思っていることをそのまま素直に語っているだけのように写った。
裁判長も多分そのような心象を受けたのではないだろうか。

検察官:そのために配慮していたことはありますか?
証人:読者の意見をよく聞いて、個人的には、絵をていねいに
検察官:読者がいやらしいものを求めていると言いましたが、あなたが考えるいやらしいものとは具体的には何ですか?
証人:…漫画の場合、どれがわいせつなのかはわかりません
検察官:性交場面に関してはどうですか?
証人:リアルに、ということです。
検察官:その際に参向にしたものはありますか?
証人:いえ、特には…
検察官:空想したものなのですか? ご自分の性的体験を元にしたりしているのですか?
証人:そういうのを参向にしているときもあるかもしれません。水着の写真集等を体の形の参向にすることはあります。
検察官:姫盗人に掲載された作品ですが、読者に受け入れられたと思いますか?
証人:ちょっとわからないですね。
検察官:姫盗人は通算してどのぐらいの期間掲載されたのですか? 毎月1回は掲載されていたのですか?
証人:始まったころは隔月だったかと
検察官:とすると、定期的に掲載されていたのですね。とすると、途中で打ち切られるということはなかったんですか?
証人:特には
検察官:とすると、証人はこれが読者に受けているのではないかと想いませんでしたか?
証人:そういうことが不安になったことがありまして、ネットで評判を聞いてみようと想ったのですが、検索にもひっかからなかったので
検察官:逆に考えれば、3年間も続いたことが読者に受け入れられたと考えられますね
証人:3年間しか、という思いのほうが強いです。
検察官:ではですね、姫盗人の漫画ですが、芸術品だと思いますか?
証人:いえ、自分ではそうは思いません。
検察官:学術的だと思いますか?
証人:特に思いません。

毎度お馴染になった「芸術性」と「学術性」の話を検察側はしつこくここでも繰り返していた。
自分の作品を「芸術だ」と言い切れるかどうかは、その作品の性質よりも作家自身の性格が出てくるのだから、そんなことを聞いても仕方がないと思うのだが…。
もう1点、「実物を参考にしたか?」という質問に、それは無いと否定をしている点は重要になってくる。弁護側の主張する「漫画は空想の産物であって現実の模写ではない」という主張を裏付けている。

検察官:どのようなものだと思いますか?
証人:大人向けの漫画だと思います。
検察官:性器等に修正をしないで出版すれば、どうなると考えていましたか?
証人:それはちょっと、もしかしたら、ということもあると思っていました。
検察官:法に触れるということですか? だとしたらわいせつ物として扱われるかもしれないと考えていたということですか?
証人:そうです。
検察官:ではあなたの考えるわいせつ物とはなんですか? 
証人:ええと…
検察官:漫画であれば無修正であるとか?
証人:可能性はあります
検察官:どの程度修正されているか確認されていますか?
証人:特には確認していませんでした。ただ、修正されていることは知っていました。
検察官:蜜室の修正の程度はどの程度だと認識していましたか?
証人:特に雑誌に連載されている時と変わらないと。
検察官:修正の程度は編集の方でどの程度やっていたという認識ですか?
証人:大丈夫な範囲でやってくれていると。
検察官:消しが入ってるのですけど、透けて見えるのですが、そういう状態であることは認識していましたか?
証人:アミを通してそういう状態であることはわかります。
検察官:蜜室と姫盗人の消しの薄さについてはどうお考えですか?蜜室や姫盗人の修正の程度で、取締をうけるんじゃないかという気持ちはありませんでしたか?
証人:特に…
検察官:どうしてですか?
証人:そのことに詳しい方に任せておけば大丈夫だろうという気持ちがありましたので
検察官:修正に関してあなたから編集部の方に相談するということはあったのですか?
証人:特にはないです。

検察官:姫盗人や蜜室に修正がされているのですが、これによっていやらしいという気持ちがなくなったと思いますか?
証人:…プラスもあればマイナスもあるとおもいます。
検察官:というと?
証人:増幅された部分もあるしそうでない部分もあるということです。
検察官:どういうことですか?
証人:隠されているということで逆にということです。
検察官:アミカケで消されたとしても、いやらしさは残っているということですか?
証人:そう、ですね。アミをかけても潰してしまっても、いやらしさとは関係がないと思います。
検察官:無修正のものと、アミカケのものがあって、いやらしさというのは変わりないということですか?
証人:自分の中では。変わらないと思います。
検察官:修正が施された『蜜室』や『姫盗人』を人前で見ることはしますか?
証人:しないと思います
検察官:どうしてですか?
証人:個人的に楽しむものだからです。
検察官:青少年に見せられるものですか?
証人:青少年に見せるというものではないですね。
検察官:社会に出回ることで、社会に悪い影響を及ぼすのではと考えたことがありませんか?
証人:あまり…
検察官:ではどう考えていますか? このようなコミック誌が社会に出回ることを
証人:社会に必要とされているから…
検察官:まあ、プラスの効用とマイナスの効用があると思うのですけどねマイナスの効用をどう考えますか?
弁護人:異議有り、誘導しています。証人はマイナスの効用について何一つ触れていないにも関わらず、検察は誘導しています。
裁判長:必要だというのは、需要があると言うことですか?
証人:そう、ですね。まあ、下世話な話、自分が小さいころ、野原で遊んでいてエッチな本を拾って読んだ記憶もありますし…

そういえば子供のころ、その辺の空き地や廃屋には必ず「エロ本」が落ちていたものだ。
それを「青少年への悪影響」と呼ぶなら、そうなのかもしれない。
でも、子供には大人の目の届かないところで冒険をする権利があり、それは健全な日常性を養うのに不可欠な人生体験なのだ。
…でもそんな粋な法解釈は聞いたことが無いのでこんな事を言っても無駄なのだろう。
でも、検察官の次の一言は、彼の心にもわずかな日常性が残っていたことを逆証明した。

検察官:では、マイナス面で影響を及ぼす可能性はないのですか?

検察官はそれを受けて「マイナスは無いのか?」と聞いた。
てことは、前述の「野原でエロ本をみつける」ことを「プラスの影響」と認めたのだ。
西村、お前も思春期はベッドの下に「わいせつ物」を隠していたんだろ?(W
検察官西村は尚も質問を続ける。

証人:マイナスについては、解らないです。
検察官:証人は、調書を作成するとき読み聞かせを受けていますか?
証人:はい。
検察官:内容を確認してから署名していますか?
証人:はい。
検察官:修正を施された姫盗人の描写に関して、検察官にどのように供述しているか覚えていますか?
証人:だいたい、覚えています。
検察官:この程度の修正では取り締まりを受けるかもしれないと思ったと供述していますが、その通りですか?
証人:それは、そうですね。始めのころ。
検察官:修正を施す理由についても述べていますが、どのように述べたか覚えていますか? 「売れるためには透けて見えるものでなければならないし、全く消しが無いのでなければ、取り締まりを受ける心配もない。そこで消しをいれるのだ」と述べていますがそのとおりですか?
弁護人:証人は何回か検察官に事情聴取をうけているので、日付を明らかにしていただきたいのですが
裁判長:15日と19日に聴取をうけていますね。それを明らかにしてください。
検察官:平成14年10月19日付けで、検察の聴取を受けたときです。
証人:ちょっと記憶が…言ってるかもしれません。
検察官:取り締まりを受けないんじゃないかと、調書に描いてあるのですが、どういうことでしょう?

そして、検察官は切り札を切ってきた。
調書の内容を読み上げ、言った記憶はあるか?と迫るあの戦法だ。
証人は意外なほどあっさりと内容を認め、機に乗じて検察官はさらに追及してゆくのだが、これは結果としてやぶ蛇になる。

証人:19日に検察官の方に言っているのですが、認めて早くでたかったというのがありまして、向こうの主張を受け入れているのです。

つまり、早く保釈してもらう為に、「向こうの言い分を聞く」という、いってみれば司法取引に応じただけだと言われてしまったのだ。
こうなると、調書は検察の言いなりに書かれたことになり、その信ぴょう性はぐんと落ちてしまう。
検察官は神経質に手元のメモを見比べ、なんとか火消しをしようと言葉をつづける。

検察官:さきほど証人は、いやらしいというイメージは網かけをした後でも同じくらいのこっていると言いましたが、そのいやらしさということと、わいせつということをどうお考えですか? わいせつ物というのは、どういうものですか?
証人:漫画にとってのわいせつというのは、解らないです。
検察官:同じ調書の中で、あなたの書いた漫画が取り締まりを受けなかったので透けて見えるということとか消しの範囲が狭いということとかが気にならなくなったと言っていますが?
証人:言ったかもしれません。
検察官:どのような気持ちで言ったのですか?
証人:…どういう気持ちというと? ちょっと解らないです。
裁判長:答えにくい質問ですね。
検察官:証人は略式裁判を受けて、罰金になっているのですが、その際は蜜室がわいせつ物であるということを納得したのですか?
証人:認めています
検察官:どうして認めたのですか?
証人:ちょっと長くなるのですが、10日に、弁護士さんにあいまして、勾留理由開示手続きの時に、勾留が伸びないかもしれないと。で、出してもらったときに、検察官の方が、社長のところへ行って「もし戦うつもりなら作家を全員勾留してもいい」と言ったことと、私の家族がトラブルにみまわれているということがありまして、一刻も早く出て、家族のもとにいたかったということです。
検察官:本心では無かったということですか?
証人:本心ではありませんでした。

そして「火消し」は失敗した。
証人は「検察が貴志社長を脅迫して無理な自供を迫った」ことを暴露してしまったのだ。
そしてビューティー氏の個人的事情が「本心ではない」罪状を受忍せざるをえない状況を作ってしまったことも誘導してしまった。

なにより、このビューティー氏を「この人の証言なら信頼できるだろう」と呼んできたのは検察側なのである。

検察官:罰金は納めたのですね? 御自身で収納めたのですか?
証人:罰金は社長のほうから出していただいています。
検察官:公45、46号証、あなたの署名拇印ですね? 
証人:はい
検察官:あなたは今は松文館との関係はどうなっていますか?
証人:今は、1本。
検察官:どのようなものですか? 絵柄とか、蜜室と比べてどのようなものですか?
証人:性交無し、性器も無しです。
検察官:あなたの考えでそうしているのですか?
証人:編集長の高田さんと話しあってやっています。
検察官:略式裁判を受けたときに、引き続き従来のような漫画を描こうとは思わなかったのですか?
証人:ええと、何が悪いのかという、同じ失敗を犯さないように、ということです。

最後に検察官は、被告の社長と証人が「利害関係」を共有しているかのような心象操作を行なう。
そんなに信用できないならはじめから呼ばなきゃいいのだが、ともかくとりあえずの形を作って質問を切り上げ、検察官は着席する。




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※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
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※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たり匿名の方の協力をいただきました。



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