第3回公判 検察側による証人尋問
〜その7〜

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検察側の大反撃によって一転して不利な状況に置かれた弁護側だったが、最後の1手を検察は誤った。
そこを突破点に弁護側の反撃、反対尋問がはじまる。
口火を切ったのは望月弁護士だった。

弁護人:事情聴取の際、検察官に罪を認める内容の供述をしていますが、それについて事情があったということですが、それについて話していただけますか?
証人:うちのほうの実家として、父が今回の事で人の噂を気にして仕事を失うのではないかという心配があったことと、妻の方が今回のことでいろいろと批難を受けていたのですが、接見禁止でそばにいてやることもできず、自分が出ていけば、私が何か言われる分にはいいのですが、何とかしてやりたかったというのがあります。

本来この部分はもう少し具体名に触れた内容だったのだが、ビューティー氏の家族の内情にかかわる部分であるため、意図的にカットしてある。
先に検察官による主尋問で「罪を認める」証言した裏には、止むに止まれぬ個人的な事情があったのだ。
表現の自由を守り、自らの作品の正当性を主張するという信念を追及することは1表現者として大切なことだ。
でも、それによって大切な家族が傷つけられ生活の手段が犠牲になるとしたら、「たたかわない」ことを責める権利はだれにもない。

今日の日本の警察では「罪を認めたもの」は保釈され、あくまで無実を訴えるものは長期投獄されるという悪しき慣例がまかり通っている。また、「警察に逮捕される」=「有罪にちがいない」というイメージが作り上げられてしまっていることもあり、法廷で正義を明らかにするという決断には大きな代償を要求するのが現実なのだ。
弁護側はさらに留置所での取り調べの様子について、さらに突っ込んで質問をする。

弁護人:話がずれますけど、取り調べの時に検察官はワイセツの意味について、具体的に説明しましたか?
証人:なかったと思います。
弁護人:証人は罰金が確定しているわけですが、『蜜室』が、ワイセツ物とされたことを納得していますか?
証人:今一つ、完全に納得しているわけではありません。
弁護人:どういった理由で納得できないのですか?
証人:理由は、他の雑誌とかで、修正が無かったり薄かったりというのがあって、なんでこっちに来たんだろうという。
弁護人:無修正のものが巷で売られているというなかで、どうして自分だけ逮捕されるのだろうという御趣旨ですか?
証人:そうです。
弁護人:罰金刑になった場合、正式裁判を請求する権利が認められているのですけど、どうしてそれをしなかったのですか?
証人:まあ、実際出てみたら、先にお話しましたように実家の方もトラブルになっていて、早く終わらせてほしいと、この状態でたたかうというのは、精神的にきつかったということです。
弁護人:『蜜室』が単行本になって、インターネットとかで評判を調べたとありましたが、評判はあまり耳に入らなかったのですね?
証人:そうですね。
弁護人:作者へのハガキとかは無かったのですか?
証人:1通いただいたことはあります。
弁護人:どのような内容でしたか?
証人:「期待しているからがんばって」という内容でした。
弁護人:逆に苦情みたいなものはありましたか?
証人:特にないです。

望月弁護士は正式裁判に持ち込まなかった理由について確認し、またビューティー氏の漫画への苦情がいままで1件もなかったことについて事実確認をし、着席する。
代わって山口弁護士が立ち上がり、尋問を引き継ぐ。

弁護人:確認なんですけど、先程いやらしいものということを言いましたが、いやらしいから違法だということでは無いのですね? いやらしいということを、わいせつ物と同じ意味で使っているわけではないと。
証人:そうですね。
弁護人:今の仕事は性交や性器の結合部分等は描写していないということですけど、これは、単に捕まりたくないからですよね?
証人:そうですね。
弁護人:それは『蜜室』がわいせつ物であるかと関係なく、裁判がどうなるか解らないし、警察がまたいつ踏み込んでくるか解らないし、そういうのは避けるためにも安全地帯にいたいと。
証人:そういうことです。

山口弁護士の質問法は、ほとんど自分で言ってしまってから「そうですね?」と確認をとることが多い。
あまり露骨だと誘導しているようにも見えなくもないのだが、聞きだしたい意図ははっきりわかる。
先に触れた「ワイセツという単語をビューティー氏があいまいな意味で使ってるので検察の調書は意味がない」ということと、「逮捕後にエロ描写をしていないのはトラブルを避けるためにやってるだけで検察に罪を認めたわけではない」ということだ。

弁護人:姫盗人という雑誌ですが、刷り上がった段階で中身はみますか?
証人:あまり、チェックはしません。
弁護人:それは他の作品もチェックしないと言うことですか? それとも自分の作品をチェックしていないということですか?
証人:自分の作品をチェックしない、ということです。
弁護人:それはどうしてですか?
証人:考え方なのでしょうけど、自分の作品というのは、描いているうちにどこが悪かったとか解ってしまうので、それを再認識するよりは、次と。
弁護人:姫盗人や『蜜室』の仕事をしていて、捕まるような仕事をしているという認識はありましたか? ヤバい橋を渡っているというような?
証人:特になかったです。
弁護人:消しの部分をチェックしたりとかは?
証人:しませんでした。
弁護人:それは関心が無かったということですか?
証人:そうです。

この流れでも質問の意図ははっきりと解る。
ビューティー氏には逮捕前も一貫して「罪の意識」は全然無かったということを言わせたいようだ。
…全部自分で言ってるけど。

弁護人:先程証人は「早く出るためには」という言い方をしていましたけど、認めないと、出られないと、なぜ考えたのですか?
証人:ええと、痴漢えん罪とか、認めないために半年1年勾留されたという話を聞いていますので…
弁護人:起訴された場合、そういう趣旨の説明は弁護人の方からありましたか?
証人:それは、こっちがどういう可能性があるかということについてはありました。
弁護人:それに対して、弁護人の方が、こういう場合は出られてこういう場合は出られないと。
証人:まあ、だいたいそうです。
弁護人:証人は、『蜜室』の以前にもエッチなものを描いていたと思うのですけど、それは他の出版社から出しているのですか?
証人:ティアネットという所で描いていました。
弁護人:いつごろですか?
証人:おととしの夏ごろです。
弁護人:それは、修正などはどのような形で出版されましたか?
証人:そのままです。
弁護人:そのままというのは無修正ということですか?
証人:そうです。
弁護人:何という本ですか?
証人:クロスエンジェルという本です。
弁護人:それはあなたの作品?
証人:いえ、
弁護人:いわゆるアンソロジー?
証人:そうです。

「いわゆるアンソロジー」で意味が通じるのは山口弁護士とビューティー氏と傍聴席だけである。
検察官と裁判長には意味が解ってないことだろう。
それはともかくとしても、無修正の本が世に出回り、それが何の規制もされていないのだったら『蜜室』だけへの摘発は法の平等性を著しく欠くことになる。

弁護人:自分が描いた作品というのは、どういう流通ルートで出回っているという認識ですか? 普通の流通ルートという認識?
証人:そうですね。
弁護人:例えば、ヤクザが関与して、アンダーグラウンドで裏本という形で流通するとは思っていないと?
証人:そうです。
弁護人:大手をふって堂々とやれるものだという認識だと?
証人:そうです。
弁護人:ええと、以上です。

ワイセツ罪が適用される時、それは大抵「群れから飛び出しすぎた1匹」が捕まっている。
ワイセツの概念はその時々の社会通念によって左右されるとされているので、良いか悪いかは別として、要は「やり過ぎなければセーフ」という形でワイセツ罪は運用されている。
以前に無修正で出版された作品を手がけ、それが「逃げも隠れもしない」正規のルートで出回っていることを山口弁護士は証明し、質問を終えた。
続けて裁判長からの質問が入る。

裁判長:ええと、ワイセツといやらしいということについてなのですが、いやらしいものを描こうという認識はあったのですね?
証人:そうです。
裁判長:それがワイセツなものだという認識はあったんですか?
証人:それはないです。
裁判長:というと、ワイセツというのは別の概念だと、
証人:まあ…法に触れるか触れないかという…
裁判長:法に触れるか触れないかというのは、捕まったあとに考えたの?
証人:それは…法に触れる触れないというのは捕まった後で考えたのですが、ワイセツ=法に触れるという意味なのか、ワイセツと犯罪の関係…
裁判長:だとすると、いやらしいと犯罪の関係はどのように考えているのですか?
証人:捕まる前は、まあ、ワイセツというのは、堅い言葉で、いやらしいものと言うぐらいの気持ちでした。
裁判長:というといやらしいもののレベルが高いものがワイセツだと?
証人:そう、ですね。
裁判長:今回ワイセツであるということについて、もっといやらしいものがあるのに、どうして捕まったのだということですか?
証人:そうですね。自分も罪に問われたことも不満です。

裁判長の質問は「ワイセツ」と「いやらしい」の関係についてどう考えているのか?ということだった。
裁判長は、証人が両者を混同していると考えたようだ。そして実際それはそうだった。
弁護側は付け加えるように、幾つかの補足質問をする。

弁護人:ええと、ワイセツという言葉が出てきたのですけど、証人は、2つの意味で使っているということはないですか?
証人:…?
弁護人:つまり、検察官に対してワイセツと言ったにしても、日常用語としてのワイセツと、刑法でいうワイセツと違いますよね。ワイセツといやらしいの関係は、日常用語としてのワイセツであって、必ずしも刑法のワイセツを意味しないということですね?
証人:はい。そうです。
弁護人:証人はワイセツの意味範囲が解らないまま事情聴取に答えていたということですね?
証人:そうですね。『蜜室』を指してこれがワイセツだろうという。
弁護人:検事がそういう言い方をしていたのですか?
証人:そうです。検事が「これはワイセツだろ?」と。
弁護人:以上です。

警察署や検察庁で行われている「供述調書」の作成法がなんとなく明らかになってきたようだ。

まず、検察はビューティー氏に「ワイセツ」の意味を説明していなかったのだ。そして今日においてもビューティー氏は法律用語の「ワイセツ」と日常用語の「ワイセツ」、そして「いやらしい」という単語をあまり区別せずに使っている。

そんななか、検事は『蜜室』を目の前に突きつけ「これはワイセツだろ?」と聞く。

ビューティー氏は「いやらしい」程度の意味で、「はい」と答える。

それを検事は「ワイセツ罪を認めた」と調書に書き記し、罰金刑にしてしまったのだ。
これじゃほとんど詐欺なのである。

検察側弁護側の尋問は終わり、次回の日程を確認してこの日は閉廷した。






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※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
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※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たり匿名の方の協力をいただきました。



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