第7回公判 弁護側証人尋問
〜その3〜

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いまさらだけれど、毎回行われている裁判後のミーティングについて触れておく。
毎回裁判が閉廷したあとで、傍聴席につめかけた支援者とヤジ馬ほか有象無象たちはエレベーターで一階まで降り、そのまま東京地裁に隣接する弁護士会館に向かう。

その弁護士会館のロビーでは、山口弁護士から支援者向けに、その日の公判の内容について簡単な説明とかがされる。で、そこでいろいろとネタバラシ的なトークがあったりして楽しいのだけれど、その子細は触れない。戦術上の理由もあるし、平日わざわざ霞が関なんて陸の孤島に出向いたことの特権としてヒミツにしたいところもあったり。
それはさておき、前回のミーティングで、支援者の1人と弁護士の間でこんなやりとりがあった。
支援者A「で、次に来る斉藤ってナニモノですか?」
山口弁護士「えー、オタク精神科医です」

「オタク精神科医」なる表現、実はかなり言い得て妙だったりする。
どのへんが妙かというと、例えば「フィリピン人留学生」とか「黒人警官」とかいう単語を想定してみて欲しい。
「フィリピン人留学生」が、「フィリピン人寿司屋」や「フィリピン人とおもわれる溺死体」になることはあっても、「ボツワナ人留学生」になることは無い。
「オタク精神科医」も、オタクの部分こそが、そのイデア的根源に関わる確定要素であり、精神科医なる職業は表層に過ぎない。
そのことが図らずも証明されたのが、今回の公判だったと言っても過言ではない。

正直言って、斉藤氏が公判の行方にどの程度影響を与えたのか、かなり限定的な気はする。
ただ傍聴者としては今回は「大当たり」だったりするし、裁判史上ある意味で歴史的な現象であったと確信する。
今回のキーワードは「未知の遭遇」だろうか。



弁護人:それではまず弁護人山口の方から。まず、証人の経歴について伺います
証人:はい。私は1990年に筑波大学医学部博士課程を修了しまして、千葉県柏市にある爽風会佐々木病院精神科の勤務医です。現在の肩書きは精神科診療助長です。そのほかに、社団法人青少年健康センターの理事も務めています。そこでは手紙、電話、メールなどでの相談を受け付けています。その他、別分野として著述の仕事もしています。
精神科医としては、思春期青年期の問題行動、例えば不登校や引きこもりを専門にしています。それに関する著書として1998年、PHP文庫から『社会的引きこもり』2002年に『引きこもりマニュアル』といったものがあります。もうひとつ、日本の青少年の漫画アニメゲームといったサブカルチャー領域の研究とフィールドワークをしていてそれに関連する著書としては2000年に太田出版から発行されました『戦闘美少女の精神分析』それから2003年に『ひきこもり救出マニュアル』それから同年に発行されました『博士の奇妙な思春期』等があります。
また、青少年の健全育成に関わる政府関係の仕事として昨年の9月から今年の3月まで文部科学省不登校問題にかかわる調査研究協力者会議の委員を務め、今年4月からは文部科学省の新家庭教育手帳作成の委員を務めています。また昨年内閣府の青少年の育成に関する有識者会議で参考意見を述べています。で、東京都の第25回青少年問題評議会の委員も務めております。また、NHKの引きこもりサポートキャンペーンのメインアドバイザー、8月から放映されますNHKの『人間講座』の講師を務めております。

弁護人:証人は今回わいせつ図画として摘発された『蜜室』をご覧になりましたか?
証人:はい。
弁護人:結論から聞きますが、『蜜室』を読んだ人が、性的逸脱行動、つまり性犯罪にはしることはあるのでしょうか?
証人:そのようなことはありえない、という感想を抱いています。
弁護人:では、そもそも『蜜室』を読んで「いたずらに性欲を刺激される」というようなことはあるのでしょうか?
証人:そのような可能性は極めて低いか、あるいは無いものと考えます。

弁護人:それでは最初に伺った「蜜室は性的逸脱行動を誘発するかどうか」という点について詳しく伺います。先生はそういった性犯罪を誘発することはないと言われましたが、それは臨床経験に基づくものでしょうか?
証人:ええと、それもありますが、既に「メディアが犯罪行動を誘発する可能性は極めて低い」ということは、社会学者の宮台慎司氏も取り上げていますグラッパーの「限定効果説」によって立証済みであり、その後追加された研究によってもその結論を覆すような結果は出ていないと考えています。メディアが犯罪に影響を及ぼすか及ぼさないかということについては既に結論が出されているというのが私の基本姿勢です。その上で、コミックというのは非常に特殊な表現形態であって、普通のメディア以上に犯罪を引き起こす可能性は低いと考えています。

弁護人:コミックの特殊性についてはあとで伺いますが、先程、「臨床経験もあるが」と言われたと思いますが、具体的にどのようなものですか?
証人:現在私が診ている青少年の大半が、いわゆる社会的ひきこもりと呼ばれる若者で、長期間自宅から出ることなく、ほとんど対人関係を持たずに生活しているが、内科的精神科的には健康に近いという若者の診療をおこなっています。その経験から申し上げますと、彼らのかなりの部分が、インターネットのポルノを含む性的な情報や、性的な部分を強調したアニメーションであるとか性行為を観賞することを目的としたゲーム。、えーと、いわゆるエロゲーあるいはギャルゲーとよばれるゲームがありますが、そういったメディアの大量消費者の一部を成していると考えています。で、先ほど申しましたように、彼らは精神的な機能や身体的な機能はほとんど正常といっていいのですが、そういったメディアに触れることによって、性犯罪に走るとかはもちろん、そもそも性行為に及ぶこと自体ほとんどないといっていいと思います。
弁護人:そういった事例をこれまでどれくらい扱っていきましたか?
証人:ひきこもりの患者さんに限定して言えば、きちんと継続的に関わりえたケースで300〜400例だと感じております。初診のみのケースを含めますと1000〜2000例くらいになると思います。

弁護人:先程ポルノグラフィーの話が出ましたが、ポルノグラフィーとは自慰行為をするための、まあオカズ、マスタベーションファンタジーとしての性格を持つと考えてよろしいですか?
証人:そのように考えます。

弁護人:ポルノグラフィーで、実在の異性を被写体としたアダルトビデオのような実写と、『蜜室』に代表される漫画やアニメーション、純粋2次元的なキャラクター表現があるとおもいますが、両者の性格は異なるものなのでしょうか?
証人:差は大きいと考えます。

弁護人:どのような差があるのでしょうか? まず実写のほうから説明していただけますか?
証人:被写体が存在するもの、実物を映し出しているメディアにつきましては、一般的な成人男性の性的刺激たりうるという点では一般性が高いと思います。
弁護人:では二次元のキャラクター表現についてはどうでしょうか?
証人:キャラクターに対して性欲を感じることができる人口は極めて小さいものであると考えます。
弁護人:性質の点からするとどうでしょうか?
証人:性質の点からいいますと、二次元の描かれたキャラクターはこの場合一種のフェティシズムの対象であって、それが実際に女性に凌辱に及ぶとかことはほとんどないと考えるのですが、これはフェティシズムというものが本来そういうものだからです。

いきなり「凌辱」ですか…とか思ったりするのだが。

証人:フェティシズムとは性的倒錯のことで、分かりやすく言いますと、女性の身体でなく、下着や靴そのものに愛着を感じそれによって性的満足を得ることがフェティシズムの定義です。その物を媒介として刺激を受けて実際に行為に及ぶことはない性的嗜好のことを指して言うわけです。二次元の描かれたものに対する性的欲求というのは、一種のフェティシズムだろうと思います。
弁護人:先程先生が言われたフェティシズムの例で下着とかが出てきましたが…
証人:描かれた絵では誇張、ディフォルメがされるわけですが、それに対して性欲を喚起させられることは、学習、トレーニングがされていないと難しいと思います。つまり、漫画を読むとか、アニメを見るとかそういう習慣が全く無かった人がいきなりそういったものを見ても、それに対して刺激や性欲を感じる可能性は極めて低いと考えています。
弁護人:性欲を喚起とありましたが、その場合の性欲を喚起された先には実在の人間は存在しないのですか?
証人:先程、マスタベーションファンタジーと言われましたけど、二次元に描かれたコミック、アニメ、ゲームのほとんどがマスタベーションファンタジーとして使用されていること、それは先ほど紹介しました『戦闘美少女の精神分析』という著書の中でも触れたことです。この結論として、それらの性的メディアは、それ自体完結した、つまりそれによってマスタベーションすることで、欲望を完結すると私は考えております。

オタクは性的倒錯の一種で、アニメや漫画は性欲処理の材料なのだという論説、きっといろんな人の反感を買うのだろうなあと、傍聴人の大多数が思いながらこの証言を聞いていたと思う。
それはそうと「マスタベーションファンタジー」なる用語は法廷用語なのだろうか?
「オカズ」とか「ズリネタ」とか言わずに「マスタベーションファンタジー」と言い換えると、貴婦人が晩餐会の席上で「ちょっとお花を摘みにごめんあそばせ」とか言って席を立つのと同じくらい、何となく高貴な気品が感じられてくるかもしれないし、違うかもしれない。

弁護人:ということは、自分自身で処理するだけでは物足りないから、実際の女性とやってみたいというような方向に動機づけられることはありえないのですか?
証人:私の取材した印象ではその2つのベクトルは異なった方向に向かっているもので、絵によって喚起された性欲がそのまま現実の女性に向かうということは極めて可能性が少ないと言えます。

弁護人:異なったベクトルという話でしたが、もう少し詳しく説明してください。
証人:そうですね。現実の女性に向かうベクトルと、二次元のアニメコミックのキャラクターに向けられるベクトルが違うということは、あとで詳しく触れますが、オタクと呼ばれる青少年の行動によく現れていると思います。具体的に言いますと、彼らの多くは日常的にアニメーションやコミックに触れ、まあ、欲望を感じ、それによって性欲処理をすると。こういった行動を日常的にしているわけですけれども、それと平行して別の文脈で、現実の女性と付きあい、配偶者を持っているという、実生活での性生活をもっています。その一方でアニメーションをマスタベーションファンタジーにしている。そういうことを示していると思います。

弁護人:先程、引きこもりの話が出ましたが、引きこもって他者とコミュニケーション取らないわけですから、当然女性にはモテない。というか知り合う機会すらないわけですよね。
証人:はい。
弁護人:その代償行為としてるだけではないのですか?
証人:私はそういう考え方には否定的です。なぜならば、事実上ひきこもっていない、むしろ対人関係豊富なオタクと呼ばれる青少年が、性犯罪や暴力犯罪を犯す事例が確率的に少ないということです。
弁護人:ええと、例えばですね。あくまでも独立した性の目的物であるということなのでしょうか?
証人:まったく現実の、日常的な空間において女性に向かう性欲の領域と、二次元上に描かれた女性あるいは女性のような図像に対する欲望とは全く異なったものとして分類しております。

弁護人:それでは添付資料の2ページ、男の子探求会発行の「Boys be deliciouce」と書いてあるページを示します。

さて、今回のメインイベント。山口弁護士が証言台に歩み寄り、コピー用紙を渡す。
同じものは裁判長と検察官にも配付されていて、各自がそれをめくって閲覧する。
これがすごい。
こういう場でこういったものが閲覧されたのは史上初なのではないだろうか?

添付資料を見たい方はこちら
(注意:性行為そのままを描いた「やおい系」同人誌の1ページです)

弁護人:これは何でしょうか?
証人:これはあの、先程から申し上げております、オタクと呼ばれる場としてのコミックマーケット、同人誌を売ったり買ったりする場があるのですけれども、そこでごく一般的に売られている同人誌の一部です。
弁護人:それで、これは同人誌のなかでなんというジャンルですか?
証人:これはショタというジャンルでありまして…
裁判長:な、なんですか?

場内、どっと爆笑。
なぜ笑いのツボなのかも、裁判長さんにはわからないと思う。

証人:同人誌ですか? 
弁護人:いやショタが…。

このオタクどもは、ここをどこだと思ってるのだろうか。
ショタがコミケだ凌辱だという単語がさらっと出てくることが正常である世界と、異常である世界が接触する様は実に喜劇的だ。 左右をふりかえれば、傍聴席のいたるところでこらえ切れない笑みが吹きだしている。

まあそれはいいとしても、メガネで太めな書記官氏の目じりが一瞬緩んだのを見逃すべくもない。
傍聴席の某漫画家曰く「いや、容姿で判断するのもなんだけど、彼は仲間だよ」


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※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
※転載は自由です。
※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たり匿名の方の協力をいただきました。



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