第9回公判 被告人質問
〜その5〜

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質問は貴志氏の漫画家時代のことから松文館を経営する頃になってからの話に変わってゆく。
ここで主に取り上げられたのは「消し」の問題だった。


弁護人:被告人が松文館の経営を引き継いだのは平成5年の4月ということでいいですか?
被告人:はい。

弁護人:5年の4月の段階で松文館は既に書物をいろいろ発行していたと思うんですが、その書物の多くはH漫画だったんですか?
被告人:そうです。

弁護人:その当時、つまり被告人が経営者となる前に松文館が発行していた本というは、局部に消しというのは入っていたんですか?
被告人:入っていました。

弁護人:まず消しにはどういう種類があるんですか?
被告人:真っ白に消す方法と、真っ黒に塗りつぶす方法と、真っ白から真っ黒までのパーセンテージがあります。

弁護人:パーセントのところ、もう少し詳しく説明していただけますでしょうか?
被告人:「網トーン」と言いまして、100%の中に10%点々が入っているのが「10%」と言いまして、90%というのは、90%消えるくらいのベタの部分が入っているということです。

弁護人:当時の消しの種類というのは、どういう種類だったんですか?
被告人:当時はベタか白かだったと思います。

弁護人:被告人が会社を経営するようになってからも、発行物について入れてる消しというのは、ベタか白か、塗りつぶすという消しを入れていたわけですか?
被告人:はい、そうです。

弁護人:消しをどれくらい入れるかということは、だれが判断していたんですか?
被告人:高田という編集局長と一緒にやっておりました。
弁護人:最終的に被告人が決裁するという感じだったわけですか?
被告人:はい、そうです。

弁護人:被告人は今までは、自分が書いた作品に、場合によっては編集長が消しを入れるという立場から、今度はこっちが消しを入れなきゃいけない立場になったわけですよね?
被告人:はい、そうです。

弁護人:それで、なぜ自分が消しを入れなきゃいけないというふうに考えていましたか?
被告人:これは非常に難しいんですが、僕が引き継いだときに都条例というのが厳しくなって…

弁護人:都条例というのは東京都の条例ですね?
被告人:東京都の条例だったと思います。「姫盗人」を出したときに、消しは入れてあったんですが、都のほうから成年マークというものを入れろというふうに言われまして、それを入れれば、そのまま続行して出版を続けてもいいというふうに言われましたので。その当時は成年マークを入れる基準がまだ整理がされてなくて、雑誌類に関しては入れないで出したら、そんなふうな話が来ましてそれが一番のきっかけできちっと入れるようにはしていったんです。
だから、これは噂なんですが、警察に捕まるとかというようなうわさを聞いておりましたので、一応その消しを入れながらやってたという、そんな程度のものです。

弁護人:被告人は無修正の性表現物が摘発されたという話は当時聞いたことはなかったですか?
被告人:絵ですか。

弁護人:いや、性表現物一般です。写真と絵両方ですが…
被告人:写真なんかが摘発されたというのは聞いたことがあります。

弁護人:具体的に写真が摘発されたという話は聞いたことがあるわけですよね?
被告人:はい。

弁護人:でも、絵である漫画が摘発されたという話は聞いたことがなかったと?
被告人:ええ、それは全くありませんでした。

弁護人:検察官の冒頭陳述によれば、平成10年ごろから売上げが低迷したため、被告人は同社の編集局長である高田浩一と相談の上、消しを薄くして売上げの回復を図ろうとしたという趣旨のことが検察官の冒頭陳述の要旨にあるんですが?
被告人:いや、その前もあるんですが、そこは削られているような感じがしますね。それが省略されているというか…

弁護人:前の部分というのはそれは被告人が警察で述べて調書にしたときの話ですね?
被告人:はい、そうです。

弁護人:その前の部分というのは何でしょうか?
被告人:その当時、新規参入というような形でH漫画業界にたくさんのほかの出版社が参入してきました。参入してきた出版社がほとんど消しをなくして入ってきたもんですから、私のほうは、きちっと消しを入れてその当時やってましたもんで、やっぱり売上げが少し落ちまして、でも、新規参入のところの出版社の人たちは消してても30%か20%かとそんな具合でほとんど消しのない出版物がたくさん出回りまして、私のところ真っ白に消してたら、これじゃあ、売上げが随分落ちるなということで、少し消しを薄くし始めました。そしたら、売上げが上がるというわけではないですが、まあ、落ちたところで並行に進むというような形で推移してきたと思うんです。

弁護人:新規参入してきたというんですけども、平成10年以前、エロ漫画の出版社というのは幾つぐらいあったんですか?
被告人:全部で30ぐらいだと思います。もうちょっとあるかな…

弁護人:それで、ほかの新規参入した出版社は消しのない本を出していたわけですか?
被告人:ええ、出してきましたね。

弁護人:それ、特に警察から警告を受けたり、摘発されたりという話は聞かなかったわけですよね?
被告人:そのときは聞かなかったですね。

弁護人:それで、なぜほかの出版社が急に消しの濃度を下げてきたのかということを考えたことはありますか?
被告人:それはあります。

弁護人:どういうことですか?
被告人:これは河出書房が出してた浮世絵なんかがほとんど消し無しで出回りはじめたとか。愛のコリーダの大島さんなんかの闘いの過程を知ってきた人たちが成長してきたんだなというふうに私は考えたんですが。

弁護人:それで、周りの出版社が消しの薄い、あるいは消しのないものを出すのを受けて、松文館としてはどの程度の消しを入れることにしたんですか?
被告人:一応40%の消しを入れようということでずっとやってきました。

弁護人:消しの面積についてはどうですか?
被告人:面積も一応は被るような形の面積は取っていたと思います。

弁護人:消しをどの程度にするかということについては、高田さんと相談の上決めていたということですか?
被告人:一番それが懸念材料で、いろんな雑誌を買ってきては見比べて、うちは大丈夫か?というような話は本当に毎日のようにやっておりました。

弁護人:ほかの出版社は消しをなくしてるんだったら、うちも消しをなくしちゃえとか、そういうふうに思わなかったですか?
被告人:やっぱり僕たちはまだちょっと古い世代というか、大島さんとか野坂さんというのはやっぱりそれを掲げて闘ったわけですが、私どもは商売をやっていこうというふうに考えてましたもんで、そんなふうに闘えないなと。だから、その業界で6位か7位の消しだというふうに書店さん辺りから言われているぐらいのラインで止めておこうということで出版活動をしておりました。

弁護人:それで、40%ぐらい消しを入れるようにして、それは今回摘発に至るまでずっと踏襲してたんですか?
被告人:いや、20%にしたやつも、なかにはあったらしいです。それは、少ない線で描かれたやつは別にいいんだというふうに、そんな情報が流れてきたんじゃないかと思います。

弁護人:その情報はどこから流れてくるんですか?
被告人:それがよく分からないんです。

弁護人:噂ということですか?
被告人:そうですね。

弁護人:今回間題になった「蜜室」に収録されている作品というのは、以前は「姫盗人」という雑誌に収録されたものですよね?
被告人:はい、そうです。

弁護人:雑誌に掲載されるときと、この単行本化されたときでは消しの濃度というのは違うんですか?
被告人:一緒だったと思うんですが、違いますかね、ちょっと僕は分からないです。

弁護人:「蜜室」の29ぺ一ジを示します。左下のほう、コマを見てください。ここのところに消しが入ってますが、これで大体何%の消しですか?
被告人:これ…40%だと思います。

弁護人:一応下のほうは透けては見えるわけですね?
被告人:はい、そうです。

弁護人:次に31ぺ一ジを示します。ここの消しの濃さは何%ですか?
被告人:40%だと思いますけど。

弁護人:下のほうがやっぱり透けて見えることは見えるわけですよね?
被告人:はい。

弁護人:これよりも薄い消しの出版物というのはほかの会社は出していたんですか?
被告人:ええ、ほとんどがそうだったと思いますよ。

弁護人:つまり、ほとんどが消しが入っていないということですか?
被告人:消しが入っていない状態だったと思います。

弁護人:それで、被告人のほうとしては、それでも一応消しをこれだけ入れるんだというふうに考えたと、そういうことですか?
被告人:はい、そうです。
弁護人:「蜜室」の1ぺージ、2ぺージ、3ぺージ、4ぺージを示します。ここのところに白くなっている部分があるんですけども、性器、もしくは性器緒合のところに、この白くなっている部分、これは何%の消しなんですか?
被告人:これ、100%です。

弁護人:白抜きされているということですか?
被告人:はい、そうです。

弁護人:なぜカラー部分については100%の消しを使っているんですか?
被告人:これは、一体どういうものがリアルか、リアルでないかという話をしなければいけませんので、ちょっと長くなると思うんですがいいですか?
弁護人:どうぞ。
被告人:漫画の絵がリアルだと言う方々がたくさんおられるんですが、僕はそんなふうに思ったことは1度もないんですよ。なぜかと言いますと、人間のアウトラインをやっぱり線で書いていくというものがリアルだというおっしゃるおっしゃり方がまずおかしい。

弁護人:それ、ちょっと具体的に説明していただけますか?
被告人:物体は、光が当たって初めて、その物体だということが分かるわけです。そこには確かにアウトラインらしきものは見えるんだけど、本当はアウトラインは無いわけです。その「無いもの」を漫画はかき足さなきゃいけないわけです。絵を志している人たちは、そのアウトラインを書いた時点で、漫画がリアルだということはだれも言わないと思います。
それと、漫画は白黒だということですね。色彩がそこへ何一つ被ってない。これをリアルだとおっしゃている人たちの認識がどの辺にあるのか、私は分かりません。
もう1つは、絵を描くというのは一体どういうことかと言いますと、本当の絵を描くというのは体の構造から描いていかないと絵になりません。骨の骨格がどうしたらどう動くか、筋肉がどう動くか、血管がどこにどう入っているか。レオナルドダビンチは人を3体も解剖をすることから、描くことを始めているわけです。漫画の絵がリアルであるという話を簡単にされると、絵描きにとっては困ってしまいます。

弁護人:さっき白黒とカラーの話をされましたが、白黒とカラーとでは何がちがいますか?
被告人:色は色というだけで表現力を持っています。人間の肌の色は、それはそれだけで肌を表現することができます。写真ではありませんけど、着色したことで、少しリアルというか、そのものに近づきますので。

弁護人:ということは、被告人としては白黒とカラーの絵を比べた場合には、カラー絵の方がより強い印象を与えると?
被告人:まあ強いと思います。

弁護人:だから、カラー絵の局部は白抜きしたということですか?
被告人:そうです。

弁護人:つまりそうすることによって、自分の会社の発行物が警察に摘発されないようにしたということですか?
被告人:はい。

弁護人:被告人はこの本を発行する時に、自分は何か犯罪をやっているという認識はあったんですか?
被告人:いや、全くありません。

弁護人:この本は取次を通して販売されているわけですよね?
被告人:はい。そうです。

弁護人:取次を通そうと思えば出版コードというのを取得しなくちゃいけない、間違いありませんか?
被告人:間違いありません。

弁護人:これもちゃんと出版コードを取得しているわけですね?
被告人:はい。

弁護人:それで取次を通して全国の書店に対して出荷しているわけですよね?
被告人:はい。

弁護人:普通に本屋さんで売られているものであって、別に裏路地とかでいかにも非合法なものを売買するというふうに売られているものじゃありませんよね?
被告人:全く違います。

弁護人:この「蜜室」の奥付には被告人の名前出てますよね?
被告人:はい。

弁護人:発行者は貴志元則と入ってますよね?
被告人:はい。

弁護人:それはちゃんと自分が悪いことをやってないから、やましくないからこそ堂々と名前を入れているわけですよね?
被告人:はい、そうです。




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※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
※転載は自由です。
※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たり匿名の方の協力をいただきました。

 
 



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