第9回公判 被告人質問
〜その6〜

ひとつ前の記事へ

質問は警察内での不当な取り調べに関する話題へと移っていく。
何度聞いてもひどい話なのだ。


弁護人:被告人は警察の取調べにおいて、「蜜室」内がわいせつであると係官から言われましたか?
被告人:言われました。

弁護人:それに納得したんですか?
被告人:いえ、ずっと納得していないのですが、彼らはそういうふうに言うもんですから。今しゃべったことをずっと言っていたんですけど、だれ一人理解できる人がいませんでした。

弁護人:それは警察だけでなく、検事さんもそうですか?
被告人:そうです。

弁護人:向こうから、なぜこれがわいせつなんだという説明はありましたか?
被告人:全く無いです。

弁護人:ただ、これを「わいせつだ」と言うだけですか?
被告人:はい。絵についての見識が無さ過ぎるというようなことを言いましたら、すごく怒りまして、接見禁止がつきました。

「接見禁止」って感情だけで決められていたんだね。
少しでも反抗的だったり口答えをして心証を損ねれば、「逃亡証拠隠滅のおそれあり」としていつまでも監禁しておけるシステムらしい。

弁護人:裁判官にそういいましたか?
被告人:裁判官にもそういいましたし、検事さんもそういいました。

弁護人:「蜜室」の内容は熟知していますね?
被告人:はい。

弁護人:例えば、これと同じことを人間を使って実写でやったとして、消しを入れていなかったとすれば、それは摘発されると思いますか?
被告人:それは事実摘発されていますから、摘発されると思いますので、全て修正を入れていると思います。

弁護人:これを絵にした途端にやっぱり大丈夫じゃないかと考えたということは、絵と写真の間に本質的な違いがあると被告人は考えたからですか?
被告人:はい。絵と写真は全く違うと思っております。

弁護人:取調官にこの絵は写真に近い絵だと言われたというのはどう思いますか?
被告人:頭がおかしいとしか思えないんですよね。写真と絵というのは何が違うかと言ったら、全く違うわけですよ。絵というのは人のイメージなんです。それを作家性というわけですよ。だから、写真というのは被写体があってだれでも写せるものを写真というわけです。頭の中のイメージを書き出すのは絵なんです。全く違うものなんです。それを写したとか、写さないとか、そういう低次元の話じゃなくて、本当に絵を理解していただきたい、そんなふうに思います。

弁護人:先ほど真庭警部補の証言をお聞きになってたと思うんですが「蜜室」内がリアルであると。露骨、具体的、詳細であると言ってましたが、露骨かどうか別として、リアルな絵だという考え方はどうしても納得できないということですか?
被告人:全く違うと思いますね。頭がおかしいんじゃないかと…

裁判長:被告人は言葉を慎しんでください。
被告人:はい。

裁判長は神経質な声で介入してくる。でも「警察は頭がおかしい」というのは貴志氏の正直な思いなのだし、実際この国の警察&監獄の人権感覚は世界水準から見ても国連から警告が来るくらい異常そのものなんだけど。
そういえば「狂気の時代の中で正常でいれば、それは狂っていると見なされる」みたいなことを言ったのはだれだったっけ。



弁護人:絵と写真では人間が受ける性的な刺激の度合いというのは違うと思いますか?
被告人:全く違うんじゃないですか。例えば100人が写真を見れば100人ともそれと分かりますが、100人が絵を見ても100人全員が理解できるわけではないと思います。

弁護人:例えば「蜜室」と同じようなカットを漫画じゃなくて、例えば写真で作ったとすれば、写真で作ったもののほうがやっぱり刺激が強いということですか?
被告人:それはみんなが共通するものが一杯ありますから、全然強いんじやないかと思います。

弁護人:「蜜室」の31ぺージを示します。ここのコマにかいてあるここの部分なんですけども、これを見た人は100人なら100人ともこれを女性器だというふうに認識するんではありませんか?
被告人:それは分かりやすく描かれてありますから、そんなふうにするかもしれませんが、それはあくまでも女性性器に似たものでしかないわけですから、受け取る側が違うように受け取れば、違うんじゃないかと思うんですけどね。

弁護人:それは性器として、認識するんじゃなくて、連想するという意味ですか?
被告人:そうですね。連想ゲームみたいなもんですけどね。

弁護人:写真で撮った性器を見るとみんな性器だというふうに認識するけど、漫画に描かれた性器を見ると、性器に似たものだから性器を連想すると、そういうことですか?
被告人:はい、そうです。

弁護人:被告人はさっきから絵についていろいろと語られておりますし、捜査官の絵に対する感覚にものすごく憤っておられるようなんですが、被告人は絵についての専門的な教育というのは受けたことがあるんですか?
被告人:おじがやっぱり絵をかいてまして、大体絵をかく家系に育っておりまして、小さいころからそういう教育を受けております。

弁護人:何か学校のようなところに行ったことはありますか?
被告人:学校はデザイン学校に行ったり、弟も美術学校行ってましたし、大体絵を描く中でずっと生きてきております。

弁護人:自分でも結構絵のことを勉強されたりしたわけですか?
被告人:はい。

弁護人:いろんな絵というのをかかれたりしたわけですか?
被告人:絵は基本的に30〜40年勉強してきております。

弁護人:ちょっと話は変わるんですが、松文館の出している出版物というのは読者の対象年齢というのはどれぐらいを対象にしたものなんですか?
被告人:一応18歳以上を対象として作っております。上は45歳ぐらいまでの読者からはがきが返ってきております。

弁護人:弁38号証をみせます。ここに『AVコミックス 18歳未満の方のお買い求めはできません 松文館』と書かれておりますが、これは何ですか?
被告人:これは書店の棚のところに挟むプレートで、18歳未満の方には売れないという明示です。

山口弁護士は証言台まで行って、その書棚用の18禁プレートやパッキング用の袋を提示する。
検察が盛んに主張する「青少年に害を与える」という主張へのカウンターだ。

弁護人:全国の書店でということはその書店さんのほうにこれを松文館のほうから送っているということですか?
被告人:そうです。

弁護人:松文館のほうはこれを書店さんに送るときに送料や代金を取ったりするんですか?
被告人:いや、全くとりません。

弁護人:それは松文館の負担ですか?
被告人:はい、そうです。

弁護人:これはどうやって使うんですか?
被告人:ここのところに白い線が入っているんですけども、その線に沿って折り曲げて、長いほうを本の下の辺りに差し込んで、本棚に固定します。

弁護人:弁39号証、弁40号証、弁41号証を示します。これ(弁39号証)はこれは何ですか?
被告人:18禁の棚プレートを大日本印刷に発注したときの印刷発注書だと思います。

弁護人:弁40号証は大日本印刷株式会社から発行された請求書なんですけど、このところに書店向棚プレート4000と書いてあります。で「税抜金額48万、消費税等2万4000円、金額50万4000円」と書いてありますが、これは先ほどプレートを発注してこれだけの代金の請求が来たということですよね?
被告人:そうです。

弁護人:それ、支払ったということですね?
被告人:はい。

弁護人:弁41号証、これ2枚になっておりますが、領収(請求)内訳書とあって、OK袋とありますが、このOK袋って何ですか?
被告人:これはパッキングするための袋だと思うんですが。

弁護人:パッキングというと、どういうことですか?
被告人:透明の袋に成人マークのやつを入れまして、後ろをテープで止めまして、それで見たくない人には見られないような形式を取っております。

弁護人:つまりこの本の中身を見ようとすれば、売り場に持っていって、レジに行ってビニール袋を外してもらわない限り見れないと、そういう仕組みですか?
被告人:はい、そうです。

弁護人:弁41号証の2ぺージ目は東京都書店業組合からの請求書なんですが、ここのところに「数量10万4000」とありますけども、これは何ですか?10万4000枚の袋を発注したという意味ですか?
被告人:そうですね。

弁護人:それだけ支払っているということですか?
被告人:はい。

弁護人:この袋についても書店が希望する場合には全部松文館のほうで袋を渡すとなっているわけですか?
被告人:そうです。

弁護人:「蜜室」の表紙を示します。先ほど、証言の最初のほうで成年コミックマークと言いましたけども、成年コミックマークというのはここのところに付いている黄色い楕円型のマークのことですよね?
被告人:はい、そうです。

弁護人:成年コミックマークが付いている本については読者層は18歳以上に限定されると、そういうことですか?
被告人:はい、もちろんそうです。

弁護人:親とか読者から松文館に対してけしからんというようなクレームが来たことはあるんですか?
被告人:いや、それはありません。

弁護人:例えば売上げがこの前伸び悩んだというんですけども、例えば子供も、もっと18歳未満の子供も読者の対象にすれば売上げが伸びて、経営もより楽になるんじゃないかと思うんですけども、そういうふうには考えなかったですか?
被告人:金を儲けるとかということが余り得意じゃないもんですから。

弁護人:特に子供相手に売ろうという発想はなかったんですか?
被告人:全くありません。

弁護人:それはなぜですか?
被告人:子供相手にと言えば、まだ全く違うコロコロコミックとか、そういうジャンルになってきますので、また違う仕掛けを考えなければいけないので。やっぱり人間を表現していこうというふうなところで出発しておりますので、それを感じることができるのはやっぱり20歳以上の人じゃないと、文芸作品みたいなもんはなかなか取っつきにくいんじゃないかと思うんです。

弁護人:ということは、いわゆる成年コミックというのは文芸作品のようなものだという認識なんですか?
被告人:基本的には文芸作品を目指しております。

弁護人:単なるいわゆるオナニーのための性欲処理道具ではないんですか?
被告人:それに用いていただいても一向に構わないんですが、目的はそういうところだけではないもんですから。

弁護人:今回間題になった「蜜室」なんですけども、これはやっぱり作品としての完成度が高いというふうに被告人も思っておりますか?
被告人:思っております。

弁護人:これは性的な観点の域からしても読み物として十分読むに耐えるものだと思いますか?
被告人:思います。

弁護人:いわゆる成年向けコミックという市場と、いわゆるAVとか写真集という市場というのは全く別の市場なんですか?
被告人:全く違うんじゃないかと思います。

弁護人:コミックスの売上げが低迷したときに、写真とかAVとか出そうとか、そういう方針転換というのは考えなかったんですか?
被告人:基本的には全くないです。

弁護人:それはなぜですか?
被告人:僕が得意じゃないからです。


山口弁護士は着席し、かわって岡本弁護士が立ち上って質問を続ける。
この証言中で、警察による密室での不当な取り調べの新事実が明らかになる。


弁護人:弁護人岡本からうかがいます。勾留理由開示公判の夜、検察官に対してわいせつと認める供述調書を取られましたね?
被告人:はい。

弁護人:その後、勾留期間の満了直前の最後の検察官調べで、その供述を覆してやはりわいせつだということは納得できないと言ったと。
被告人:はい。

弁護人:それはなぜですか?
被告人:それは弁護士の先生が土曜日に来てくれたとき、うちの女房の言葉をその弁護士先生が持ってきてくれたんです。その内容が会社のことはもういいから、自分の好きなようにやっていいと言われまして、私は絵描きですので、絵描きを守らないといけないってそういうふうに思いました。それはなぜかと言いますと、アメリカの漫画界が1955年にコミックコードというものを出しまして、大人漫画を全部潰しました。いまだにアメリカ漫画は復興されておりません。私は絵が命なもんですから、これは正面切ってたたかって勝たないと、そういう思いで言ったわけです。

弁護人:それを言ったとき、検察官はどのような反応を示しましたか?
被告人:すごい怒り出しました。2人とももう出さないと。

弁護人:2人というのは高田編集局長とビューティさん?
被告人:そうです。

弁護人:検察官:異議があります。前の被告人質問で明らかになっていると思いますので、重複です。
裁判長:重複は避けてください。

弁護人:弁護人:そして、その後どうなったんですか?
被告人:その後、再逮捕するとか、追起訴するとかと言われまして…

弁護人:そこの点をちょっとお尋ねします。弁護人に対して、通信販売用として「蜜室」を販売目的で所持しているという件で追起訴予定だという連絡が捜査検事から来たんですが、そういうことを言われたわけですね?
被告人:はい、そうです。

弁護人:捜査が続行された結果、保釈の申請はどのようになったんでしょうか?
被告人:保釈はずっとされないまま、そのまま留置されました。

弁護人:最初の保釈申請は勾留期間満了直後になされて、却下されて、準抗告がされて、却下された?
被告人:はい、そうです。

弁護人:2度日の保釈申請については裁判官が検察官の捜査期間を考慮して、3週間ぐらいたってから決定を出すとして、ずっと保留になってたままだったんですね?
被告人:はい。

弁護人:2度日の保釈申請については結果はどうだったんでしょうか? まず保釈の決定が出たんですね、今度は?
被告人:はい。

弁護人:検察官が準抗告をした?
被告人:はい、そうです。

弁護人:今度は却下の決定がされた?
被告人:はい、そうです。

弁護人:そうすると、あなたが本件で起訴されてから実際に保釈で身柄を解かれるまで何日間、引き続き身柄を拘束されましたか?
被告人:22日間です。

弁護人:結局追起訴はなされたんでしょうか?
被告人:いや、全くされませんでした。

弁護人:通販用として取り分けてた「蜜室」は本当に存在してたんですか?
被告人:いや、それは全くないと思います。返本が返ってきた分を因縁をつけられたとしか言いようがないと思います。

弁護人:トーハン、日販を通して販売したことになってるものの返本分だったんですね?
被告人:はい、そうです。

弁護人:すると、本件で既にわいせつ図画頒布の中で1度評価されたものですよね?
被告人:はい、そうです。

弁護人:あなたはこの追起訴予定だといって捜査を続行して、更に22日間身柄拘束が続いたことについて、なぜだと思いますか?
被告人:どうしても認めさせたくて、11日の日に僕もう1度呼び出されました。11月の11日だと思います。認めないのかということを何度かそのときも聞かれましたが、それはもう認めないという話をしまして、そしたらものすごい顔をしてにらんでおりました。

弁護人:その間、会社はどんな状態だったんでしょうか?
被告人:もう明日にでもつぶれそうな、そんな感じの状態でした。

弁護人:弁護人望月から伺います。先ほど作家さんのために闘っていかなきゃいけないという趣旨の御証言がありましたけれども、今回身柄拘束される前に「蜜室」を販売しているときも、わいせつ規制だとか、公権力だとか、そういったものに反発する意思で「蜜室」を売ってたんですか?
被告人:いや、そうではなくて、漫画家というのは、僕自身漫画家ですのでよく分かるんですが、規制を受けた中で絵を描けといっても感動する絵なんて描けないわけですよ。現にそれをアメリカが既に答えを出しているというのもありますから、やっぱり表現を規制するというのは人の頭の中に土足で踏み込んでくるようなもんだというふうに僕は考えてます。そのために漫画家を擁護しない限り、私のところ出版社やっているもんですから、出版社というのは漫画家がいて出版社が成り立っていると、私は思っております。

弁護人:今のは作家さんのためというところの具体的な内容だと思うんですけれども、私が聞きたかったのは「蜜室」を出しているときに確信犯的に「蜜室」の出版をされていたんですかという質問なんです。
被告人:いや、全くそういうことはないです。だから消しを入れて、他社と比べて6番手から7番手ぐらいを走っているような位置に自分のところは置いておりましたので。

弁護人:弁護人山口から。先ほど、岡本弁護人のほうから土曜日に弁護士が来たと言いましたが、その土曜日というのは10月19日、つまり起訴されたのが10月22日火曜日なので、その直前の土曜日ということですね?
被告人:はい、そうです。

返本された「蜜室」を口実に、通販用だから別件で起訴すると、はじめから立件できる見込みのない容疑で拉致監禁を続け、
会社を潰すぞと脅し、
家族と社員と作家を全員逮捕するぞと脅し、
同じく監禁している二人を出さないぞと脅し、
権力への屈服を迫っていたのだ。
これは精神的拷問としかいいようがない。

貴志氏がいったい何をしたのか?
もちろん、何をしたわけでもない。普通の真面目な元漫画家の出版社の社長さんだ。
そんな「どこにでもいる人」が、「どこにでもある漫画」によって、警察官僚OBの国会議員・平沢勝栄が手紙を1通書き、その意向を受けた機動隊オヤジがなんとなく「犯罪だ」と断定し、踏み込んだ官憲によって社内の商品を全て強奪され、身柄も拉致され、検察官の卑劣な脅迫に1カ月近くもさらされ、そのうえヤツらは「すべて悪いのはお前だ」と言っている。

これは別に特別なことではなく、日常的に行われている姿だ。
日本が「民主主義社会」であることに誰も疑問すら持たないけれど、実はそんなものはどこにもなかったんだね。





次の記事へ



※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
※転載は自由です。
※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たり匿名の方の協力をいただきました。

 
 



inserted by FC2 system