第9回公判 被告人質問
〜その7〜

ひとつ前の記事へ

弁護側の被告人質問が終わり、こんどは検察側からの質問がはじまる。
内容はこれまでとほとんど変わるところはない。


検察官:検察官斉藤から伺います。「蜜室」の件について聞きますけれども、これは薄消しとか、全部消してある部分もあるようですけども、消すことについては、あなたが決めたわけですね?
被告人:そうです。

検察官:それで、どこの部分にどの程度の割合の消しを入れるかというのは、もちろんあなたが決めたということになりますね?
被告人:それは現場の高田局長というのがおりまして、あらかたの部分は私が言うんですが、細かい部分については彼らが処置をしたと思います。

検察官:大体の方針は、方針というか大まかな部分は、あなたが決めたということで、これはよろしいんですね?
被告人:はい、結構です。

検察官:そこで聞くんですけれども、どうしてそういうふうな消しをこの作品について入れて出版しようと思ったわけですか?
被告人:これは、当時いろんな出版物が出ておりまして、比較対照しながら、これだったら自分のところは突出してないということで入れていったものだと思います。

検察官:ほかと比べてということになると、ほかがこの程度だから、あなたのところでそれよりも更に消しの程度が厚ければ規制の対象にならないだろうと、そういうふうな考え方ですかね?
被告人:はい、そうです。

検察官:あなたが消しを入れることに関して考えたことは、それだけなんですか?
被告人:大体基準になったのは、そういうことだったもんですから。

検察官:私が聞いているのは、警察の規制とかそういうのを置いて考えれば、社会に対する害悪というんですかね、そのままの状態で出版すれば社会に対して害悪を流すことになってしまうんじゃないかとか、そういう考慮はなかったのかということなんですけれども?
被告人:基本的にそれは作品ですので、受け止め方がどうあれ、描いている内容の問題になってくると思うんですが、私はその作品は割と出来はいいほうだというふうに考えております。漫画の中でも割と出来はいいんじゃないかというふうに考えておりますので、出版したということなんですが。

検察官:私が今聞いたのは、薄消しとか、作品のいろんな部分に消しを入れてますけれども、これはただ単に官憲とかの摘発を考えて消しとかそういうのを入れただけで、本来的には社会にそのまま出していいものだとあなたは考えていたんですか?
被告人:はい、考えておりました。

弁護人:そうすると、本来、「蜜室」については何らの規制を受けるべきではないというふうな考え方を持っていたんですね、その当初から?
被告人:はい、受けるとは思っておりませんでした。

検察官:検察官西村からうかがいます。「蜜室」のカラーの部分については先ほどの証言どおりということですね?
被告人:はい。

検察官:自黒の部分ですが、自黒の部分に消しが入っていますね?
被告人:はい。

検察官:これはなんで消しを入れているんですか、白黒の部分に?
被告人:それもさっきお話ししたことだろうと思うんですが…

検察官:もう1度言ってみてください。
被告人:だから、漫画は写真と違ってずっと摘発も行われてきてなかったし、前例が全くないもんですから、私どももどんなふうにしたらいいのかというのを、ほかの出版物を見ながら、その中で6〜7番手くらいの消しの濃さにしようということを高田と話し合って入れていたということです。

検察官:そうしますと、無修正のまま出版するとどうなると思っていましたか?
被告人:それも分かりません。絵ですから、分からないことに私は足を突っ込もうというふうには考えておりませんでしたし、それで、その当時の出版界を見てましたら、無修正でもいいだろうというふうには考えられるくらいの書物が出ておりました。でも、私のところは少しでもアクシデントなく営業していきたいというふうに考えておりましたので、売れ行ききがそんなに伸びなくても、そのままにしておけというような話は高田によくしたと思います。

検察官:今言葉に出たアクシデントというのは何ですか?
被告人:だから、注意されたり出版物が停止したりということが起こっては困るので、だから、できるだけ目立たないような形を。

検察官:今のあなたの証言だと、無修正でも大丈夫じゃないかという気持ちがあったということですね?
被告人:はい。

検察官:では、なんで無修正のまま出版しなかったんですか?
被告人:だから何度も言っていますように、どんなふうなことがあっても全く、分からなかったんですよ。ここ15年か20年くらいそういうことを聞いてなかったもんですから。何を例にとっていいか分からないし、そんな状況だったもんですから。でも、無修正の河出さんの、例えば浮世絵が捕まれば、またみんなそのときは考えるんじゃなかったかと思いますが。

検察官:そうすると、あなたは浮世絵をべースに考えていたということですか?
被告人:基本的には浮世絵をべースに考えていたと思いますね、あのころは。みんなそんなふうに考えていたんじやないかと思います。

検察官:浮世絵が摘発を受けてないので、漫画の場合も無修正でも大丈夫だろうと、こういう判断をしていたということですか?
被告人:そうです。浮世絵の場合はカラーですから、カラーで、なおかつ修正がなされてないもんですから、大丈夫だというふうには思っておりました。漫画は全然、次元が違うなというくらいには考えておりました。

検察官:そこで、黒い網掛けを、薄網掛けをやっていますけれども、これはそうすると、アクシデントに巻き込まれないためにやったということですか?
被告人:はい、そうです。

検察官:警察から警告を受けたくないということですか?
被告人:そうです。

検察官:すると、その程度の.消しをしてれば大丈夫だろうと、全く間題ないだろうと、こういう認識ですか?
被告人:はい、そういう認識を持ってやっていました。

検察官:その根拠というのは無修正でも摘発されていないからだと、こういうことですか?
被告人:はい。

検察官:今回「姫盗人」が50%の修正で、「蜜室」が40%に減らしていますね?
被告人:はい。

検察官:これはどういう考え方ですか?
被告人:部数的に「姫盗人」のほうが部数が多いもんですから、出版部数ですね。それで単行本のほうが随分少ないもんですから、やっぱりそれだけマニアックだということなんですけど、その違いでそんなふうにしてるんだと思います。

検察官:よく分からないんですが、どういうことですか?
被告人:やっぱり広い読者が、一般人を巻き込むような部数になったら消しをきちっと入れておかないとまずいんじゃないかというような話合いはしましたので、そんなふうになったんじゃないかと思います。

検察官:あなたは捜査段階では、売上げが落ちているのでカバーするためということで述べていますが、そういうことではなかったんですか?
被告人:そうじゃないと思います。だから、50も40も基本的には変わらないんですが、見た感じではそんなに変わるものではないので、はっきり全員が、編集部が認識していたかどうかも、ちょっとその辺は分からないですね。

検察官:先ほど、弁護人の質間に対して、消しを入れる理由について、警察に捕まるとのうわさがあって消しを入れるんだということを述べてましたね?
被告人:はい。

検察官:今の証言だと、無修正でも全く問題なかったと思ったということと、ちょっと矛盾するんじゃないでしょうか?
被告人:だから、自分の心と、そのままそれが形になるということとは、ちょっと違うと思うんですが。自分の心が、そのまま形になれば一番いいんです。

裁判長:つまり、あなた自身としては摘発されるべきではないと思ったけれども、摘発のおそれがあるから、そのおそれを消すために消しを入れたということですか。
被告人:そうです。いろんな人たちがいますから、いろんな判断をされるというようなことを中心に考えたら、自分の考えを押し通すわけにはいきませんので。大体、だから世間で出回っている本を見ながら5〜6番手につけとけば何にもアクシデントも起こらないだろうと、そういうふうに考えまして、そんなふうな修正を施しておりました。

検察官:それで、この「蜜室」については作品としての完成度が高いというお話でしたが、芸術作品ではないかという考えなんですか?
被告人:芸術作品とは言いませんが、キャラクターと言いますか、個々の人間が割と深いところまで描けていると思います。そういうふうに人間表現をまずできない作家たちが多い中で、そこまで人間表現ができるというのは、なかなかの作品だなというふうに私は思って読んでおりました。

検察官:「蜜室」をかいた作家は、性交描写などをできるだけリアルにかいたというふうにこの法廷でも証言しているんですけれども?
被告人:リアルというか、線をたくさん重ねたという話だけでしかないんじゃないかと思うんですが。彼が言葉の表現としてそういう表現をしたかもしれませんが、線をたくさん重ねればリアルなのか、1本線でかいたものがリアルじゃないのかって、専門じゃないあなた方が分からないんじゃないかと思うんですよ。

裁判長:ちょっと言葉を謹みなさい。漫画をかいた本人が言った言葉について聞かれているわけだから、ちゃんとそれに対してまじめに答えなさい。
被告人:ですから、たくさんの線を重ねればリアルなのか? 私には分からないんですよ、おっしゃっていることが。

裁判長:作家本人ができるだけリアルに描こうとしたと証言しているわけです。それについてあなた自身はどう考えるかということを聞かれているわけです。
被告人:私はリアルじゃないと思っておりますので、ちょっとよく分からないです。

検察官:完成度が高いという話ですが、これも作者ビューティーヘアがここで証言していることですけれども「高田からHなものをという要望があったんだ」と、「SMや強姦のような感じのものをと言われたことがある」と述べていますが、これと作品としての完成度が高いということと、どのように結び付くんですか?
被告人:1本の漫画が快く読まれていくには、いろんな手法がありまして、やっぱり面白く読ませていただけるという作品を、やっぱり優秀な作品だなというふうに考えております。

検察官:これ作家本人が述べていることですけど「いやらしいというものを描いた」と証言していますが?
被告人:それはそれでいいんじゃないかと思うんですが。

検察官:それはそのとおりですか?
被告人:はい。いやらしさも表現されてますし、非常に面白いと思いますけど。

検察官:それと、先ほど、本物の性器ではないということで、描写ですから当然ですけれども、これは結局は性器に似せるようなものを書いて性器や性交場面を連想させるということですね?
被告人:はい。

検察官:それによって読む者に性的な刺激を与えるということではないんですか?
被告人:それはいろんな人たちがH漫画を書くんですが、今おっしゃったようなことを描いている作家さんもいらっしゃいます。でもビューティーヘアさんに関しては、僕はそんなふうにとってなくて、見せかけの部分をうまく表現して最後まで読ませてくれる、そんなふうに僕は受け取っておりました。それで、中の話とか、こんな人間がいるんだよというのを読み手に教えていただけるという、そういう作品になっておりますので、今、検事さんがおっしゃっているような作品もたくさんあると思いますけど、ビューティーヘアさんの作品はそういう作品ではないと私は思っております。


弁護人:さっき検察官の質間に対して、あのころはみんな浮世絵が大丈夫だから大丈夫なんだというふうに考えていたというんですけども、あのころというのは何年くらいのことを指していたんですか?
被告人:5〜6年前だと思うんですけれども。

弁護人:ということは平成10年前後ということですか?
被告人:はい、そうです。

弁護人:それで被告人は浮世絵を基準に大丈夫かどうか判断していたと言うんですけれども「蜜室」が出たのは平成14年ですよね。その当時は、どういう要素を考慮して「蜜室」が摘発されるか摘発されないかということを考えていたんですか?
被告人:そのころは、ほとんど消しが入らない状態の漫画があふれて摘発されずにおりました。それでもぼくが40%の消しを入れろって言ったもんですから、売上げがやっぱり伸びなくて、苦しんでいたことは苦しんでいました。

弁護人:でも、消しをなしにしようとは考えなかったんですか?
被告人:考えなかったです。

弁護人:それは怖かったからですか、摘発されるのが?
被告人:怖かったというより、本当に摘発されるのは構わないんですけど、所帯が60人、80人になってきてましたから、それを変なことでおかしなことになるのは嫌だったもんですから、できるだけ用心をしてということで消しを入れていたわけです。

弁護人:それは会社経営者として大勢の人間を養っている人間の責任感みたいなものですか?
被告人:はい。

裁判長:今回捕まってから保釈になりましたね?
被告人:はい。

裁判長:その後の松文館の出版の方針はどのような方針に基づいてやっているんですか。
被告人:一応、以前のように白い消しを入れまして出版させていただいております。

裁判長:そうすると、今回のような摘発を受ける危険性のない形にしているということですか?
被告人:はい、そうです。まだ、これがいいのか悪いのかというのは決まっておるわけでないもんですから、そういうふうにしてやっております。

弁護人:これがいいものか悪いものかどうか分からないというふうに言われましたが、もう1回捜索とかに入ったり、あるいは再逮捕とかされたら、会社の経営が本当に立ち行かなくなってしまうから、もう危ない橋を渡れないと、そういう懸念があるという理解でよろしいですか?
被告人:はい、そうです。

全ての証人は出そろった。
そしていよいよ検察の論告求刑へ


次の記事へ



※尚、このレポートはメモ及び記憶を元に作成されており、あくまで公判のイメージを伝えるためのものですので、多少の記述の食い違いは御容赦ください。
※転載は自由です。
※制作は児ポ法改悪阻止青環法粉砕実行委員会が行なっています。 また、制作に当たり匿名の方の協力をいただきました。

 
 



inserted by FC2 system